2007年9月3日
『アサッテの人』諏訪哲史
海外赴任で日本を離れてから、芥川賞は必ず読むようにしている。その時々の、日本国内の風潮・傾向を理解する手助けになると思うからである。なかば義務感のような気もするが、それだけの価値はあるはず。
今回、2007年上半期の受賞作がこの『アサッテの人』。著者は諏訪哲史で1969年生まれ。本作品はデビュー作ながら、同時に群像新人文学賞を受賞している。これは村上龍以来30年ぶりとのこと。なお、著者にとっての村上龍は、高校時代に最も憧れた作家であったそうである。
ちなみに最近の芥川賞を読むと、一つのテーマとして現代の「生きづらさ」があるように思われる。感じ方は人それぞれだが、例えば2006年の受賞作は『八月の路上に捨てる』(伊藤たかみ)、『ひとり日和』(青山七重)。そして今回の『アサッテの人』も同様の感がした。その「生きづらさ」をどう克服していくか、それぞれにテーマがある。
物語の構成やフォントの使い方など、特殊ながらもすんなりと読める作品である。文学だから表現力も注目なのだが、それよりも、日本から遠く離れた地で、時流の芥川賞を読むというのもある意味得がたい経験であると思う。
講談社
協力=シンガポール紀伊國屋書店
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.105(2007年09月03日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 氏家