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紀伊国屋「おすすめの1冊」

2007年11月19日

『アヘン王国潜入記』高野秀行

photo-52007年10月末、ミャンマー、ラオス、タイ国境にまたがるケシの産地「黄金の三角地帯(ゴールデン・トライアングル)」で麻薬王の異名をとったクン・サがヤンゴン市内で死去した。

それで思い出したのが、高野秀行が単身でゴールデン・トライアングルに潜入・滞在した見聞録である本書。彼が潜入したのは、クン・サが牛耳るミャンマーのシャン州ではなくワ州。そこは政府の力の及ばぬ、旧共産党の一派であり反政府ゲリラでもあるワ軍が牛耳る地域。植民地時代から部外者が長期滞在したことのない政治的秘境に、高野は興味を持つ。ワ州は平地が乏しいため食糧の自給もできず、かといって換金作物の栽培も十分にできない。そこでワ軍は現金収入を得るために、ヘロイン・ビジネスに手を染める。

著者が興味を持ったのは、そこに住む人々。彼はそこでケシの栽培に従事する。村人たちは、どこにでもいる純朴な人々だった。彼は、ケシをヘロインではなくモルヒネ、つまり麻薬ではなく医薬品として輸出することを思いつく。

書名だけだと何だかわからない本のように見えるが、ミャンマーに住む少数民族の日常を記録した、数少ない文献の一つと言える。

 

集英社

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.110(2007年11月19日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 茂見

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