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シンガポール不動産「耳寄り情報」

2018年6月27日

海外不動産投資のABC(1)

『一つの籠に全部の卵を入れるなかれ』とは欧米で古くから言われていることわざ。その籠を一度落としたら、全ての卵を失ってしまうからです。

 

分散投資は良策ですが、分散投資対象として海外不動産が必ずしも安心・安全というわけではなく、それ自体にも大きなリスクがあります。今回は、海外不動産の購入時に考慮すべき注意点を重要性の順に概述してみます。ただし、筆者の個人的意見を多く含みますので、購入の判断はあくまで自己判断・自己責任であることをお忘れなく。

 

1.カントリーリスク
 現金、芸術品、貴金属などのモノ(動産)は、自分で所持・保管・移動もできます。しかし、不動産は動かす事ができないのは無論のこと、所有権の証明も、登記という所在国の制度に依存しています。革命・戦争は言うに及ばず、外国人の不動産所有の制限、外貨交換・持出し規制、保有や売買時の税制変更、経済自体の混乱による不動産相場の暴落等があっても、不動産を自ら担いで自国に持ち帰ることはできません。

 

2.日本の主権(日本政府の保護)は及ばない
 日本国内で海外不動産を購入した場合でも、日本の宅建法(宅地建物取引業法)や金商法(金融商品取引法)は適用されません。契約に瑕疵があった場合も、日本国内での販売業者に対する苦情を消費者庁に訴える程度しかできません。

 

例えば、過去の事案では、
インドシナ半島の某新興国首都所在のマンションの権利証を持って、現地を訪ねてみたら、登記簿には別の所有者が登記されていた
建設中の物件を購入契約したが、デベロッパーが資金難に陥り、途中で建設が頓挫してしまった
リゾート・ビラを購入したが、開発できない国立公園内に立地していることが後日発覚し、政府と開発業者の紛争が勃発
利回り保証があるので購入したが、経済情勢の変動を理由にデベロッパーが保証を打ち切ってしまった
大規模都市開発をセールスポイントにしていた計画中物件を購入したが、政権交代があり、大規模都市開発が大幅遅延・縮小されることになり、不動産価値の毀損が懸念される
不動産価格が当該国民に手の届かない価格になってしまった事を懸念した政府が、外国人の新規購入を規制する法改正を行い、転売時に買い手がなかなか見つけられない
――などなど。いずれも、不動産所在国で自己解決するしか手立てはありません。

 

3.公正な行政や裁判が確保されない国への投資は極めてハイ・リスク
上記2.に挙げたような事例がある国々では、不動産そのもののみならず、“差し押さえ”などの不動産を巻き込んでの不当な係争が起きた場合でも、外国人個人が争って勝訴することが極めて困難な場合も多いものです。

 

4.先進国(=まともな法治国家)投資が基本
発展途上国ほど概して安価で、将来の経済成長・値上り期待も大きいのですが、カントリーリスク、特に所有権ならびに投資価値保全を考えると、先進国投資の方が安全です。中国本土の経済成長の結果、余剰資金が向かった不動産投資先の過半は、米国、カナダ、英国、豪州などの先進国でした。アジアでは、価格が高いにもかかわらずシンガポールや香港への投資が多い理由がうなずけます。

 

(写真:米国ハワイ州)

文=木村登志郎(パシフィック不動産株式会社CEO、シンガポール宅建士)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.335(2018年7月1日発行)」に掲載されたものです。

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