2009年10月5日
マルチエスニックシティ・シンガポールで 中華・インド・マレーのフェスティバルめぐり
目次
家族みんなで月をめでる、中国の伝統的な祭日「中秋節」Mid-Autumn Festival
「中秋節」のはじまり
日本でも「中秋の名月」をめでる習慣がありますが、元々は中国から伝わったもの。一説によると、むかし、嫦娥(チャン・アー)という仙女がいて、弓の名手である夫の后羿(コウゲイ)と共に天から地上に降り立ちました。后羿は人々を苦しめていた10の太陽を9まで射落とし英雄になりました。しかし嫦娥は天界が恋しく、夫がもらい受けて来た不老長寿の薬を盗んで飲み、8月15日に月に逃げてしまいました。しかし月には薬を搗くウサギときこりの老人しかおらず、寂しい日々を過ごしたそうです。
別の説では、后羿の留守中に家に悪人が来て、不老長寿の薬を渡すよう嫦娥に迫ったため、彼女はやむにやまれず薬を飲み、天へ舞い上がると月へ昇ってしまいました。愛する妻がいなくなったことを悲しんだ后羿は、毎年8月15日になると果物などを供えて彼女をしのんだそうです。
他にも諸説あり、后羿と嫦娥の人格も話によって少々違いますが、いずれも最後は不老長寿の薬により2人は別れ別れになってしまったという、ちょっと悲しいお話です。
「中秋節」といえばなぜ月餅とザボン?
中秋節といえば月餅(ムーンケーキ)ですが、こちらの由来は元代末期。蒙古族の統治を覆したいと考えていたある戦略家が「中秋節に月餅を食べれば災難を逃れられる」という噂を流し、信じた人々は皆月餅を買って帰りました。中秋節に月餅を切って開いたところ、中には「八月十五日武装蜂起」と書かれた紙が。各地に散在する武力を密かに団結させるために月餅を用いたという訳です。その戦略家は明の太祖・朱元璋の宰相を務めた劉基といわれています。
ザボンも中秋節には欠かせない食べ物。中国語で「柚子(ヨウズ)」といいますが、子供に加護があるという意味の「佑子」と同音で縁起が良いから、とされます。ちょうど中秋節の時期にザボンが最盛期を迎えることも関係しているようです。
中秋節にまつわるエピソードは他にもいろいろ。調べてみると面白いですよ。
「シンガポールの「中秋節」
丸い月餅は現在では家族団らんの象徴。中華系の家庭では中秋節に家族や親しい友人同士で集まり、月をめでて月餅を食べる習慣があります。毎年旧暦8月に入る頃から親しい人や、会社同士などで月餅を贈ることが広く行われています。
また、チャイナタウン周辺は毎晩ライトアップで華やかになります。中秋節限定のバザールがパゴダストリートやサゴストリートなどに出て、飾り物やランタンが並び、買物客で賑わいます。今年の中秋節は10月3日で、バザールも3日夜まででしたが、ライトアップは18日まで実施されます。
Chinatown Mid-Autumn Festival Street Light-up
期間2009年9月19日(土)~10月18日(日)時間日~木 19:00~0:00 金・土・日 19:00~2:00会場Eu Tong Sen Street, New Bridge Road, Pagoda Street, Trengganu Street, Sago Street and Garden Brdige
ヒンドゥー教の新年を祝う光の祭典「ディーパバリ」Deepavali
「ディーパバリ」のはじまり
インドの古典言語であるサンスクリット語で「ディーパバリ(Deepavali)」、ヒンディー語で「ディワリ(Diwali)」と呼ばれるヒンドゥー教最大のお祭りについては、地域に伝わる伝説や神話によって諸説あります。有名なのは古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」に由来するもの。謀略によって国を追放されていたラーマ王子が、魔王ラーヴァナを打ち破って14年ぶりに国に帰還し、人々が火を煌々と灯して出迎えたのがはじまりとされます。ラーマ王子はヒンドゥー教の最高神の1人ヴィシュヌのアバター(権化)とも。また、ディーパバリは美と豊穣と幸運の女神ラクシュミを祭る日ともされますが、ラクシュミはヴィシュヌの妻。仏教でいう吉祥天です。
一般的な慣わしとしては、ディーパバリの前には家中を大掃除して、飾り物や電飾で家の内外を飾ります。また、服や靴なども新調して新しい年を迎えます。夕刻になると各家の門や玄関先、窓辺などにディヤと呼ばれる素焼きの小さな器(写真下)を置いて、ギー(精製バター)を注ぎ、綿で芯を作って火を灯します。花火や爆竹で賑やかに祝う所も多いようです。
シンガポールの「ディーパバリ」
ディーパバリ期間に賑わうのはやはりリトルインディア。屋根付のバザールが出て、全長2kmにもおよぶライトアップが通りを彩ります。今年のディーパバリは10月17日。10月5日早朝にはタイプーサムに並ぶ奇祭・ティミティが行われます。焼けた炭の上を僧や信者が裸足で歩くというものです。また、レースコースロードで、10日には午後7時からパレードが、16日には午後8時からカウントダウン・コンサートが行われます
Little India Deepavali Street Light-Up
期間 9月18日(月)~10月25日(日)
時間 19:00~深夜
会場 リトルインディア周辺
Thimithi (Fire-Walking) Festival
期間 10月5日(月)
時間 2:00~5:00
会場 午前2時にリトルインディアのスリ・スリニヴァサ・ペルマル寺院を出発、火渡りの儀式は3時ごろよりチャイナタウンのスリ・マリアマン寺院にて
ラマダン明けを盛大に祝福「ハリラヤプアサ」Hari Raya Puasa
「ハリラヤプアサ」はマレーのお祭り?
断食の月・ラマダンはイスラム教のヒジュラ暦で第9月。この月はイスラム教徒は日の出から日没まで飲食を断ちます。迫害から逃れてメッカから移住(アラビア語でヒジュラ)せざるを得なかったムハンマドと信者達の道中の苦難を追体験するという、イスラム教徒に課せられた義務のひとつです。ラマダン明けの第10月初日から3日間は、マレー語で「ハリラヤプアサ」と呼ばれる祭日。「ハリ」は祝祭日、「ラヤ」は重要な、「プアサ」は断食の意味です。今年は9月20日からでした。
ラマダン後のもうひとつの重要な祭日がヒジュラ暦第12月の10日、メッカ巡礼最終日からの4日間で、マレー語で「ハリラヤハジ」。「ハジ」は巡礼の祝祭という意味。今年は11月27日からです。巡礼に参加しない人も地元のモスクへ正装して出かけて、羊や山羊を生贄として捧げます。
ちなみに、マレー半島にイスラム教徒が多いのは、15世紀初頭に建国されたマラッカ王国がイスラム商船の来航を促すために国教としたのがはじまり。明の朝貢国でもあったマラッカ王国が東西貿易の中継港として繁栄していった歴史が背景にあります。
シンガポールの「ハリラヤプアサ」
アラブ・ストリートに近いカンポン・グラム、イーストのゲイラン・セライでは毎年ラマダン期間にマーケットが立ち、女性の衣裳クバヤ(写真下左)を売る店やちまきに似たケトゥパ(写真下右)を売る店などが並んで、「ハリラヤプアサ」に備えて買い物をする人達や観光客で賑わいます。夜には華やかなライトアップも。今年は9月末まででしたが、来年のハリラヤプアサは9月10日、ライトアップはその数週間前から始まります。
民族色豊かなお祭りがひとつの都市でいくつも見られるのは、マルチエスニックシティのシンガポールならでは。ハリラヤプアサは毎年10日ぐらいずつ時期が早まりますが、中秋節は毎年9月~10月ごろ、ディーパバリは10月下旬~11月上旬です。ライトアップや関連イベントなどのスケジュールはシンガポール政府観光局のWebサイトで確認できます。
いつもよりひと足伸ばせばできる異文化体験、ぜひ楽しんでみてください。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.154(2009年10月05日発行)」に掲載されたものです。
文= AsiaX編集部