2009年9月19日
ペットは家族の一員です。 シンガポールのペットライフ
ペットとは、愛玩する目的の動物のこと。愛情をかけて心和むひと時を過ごす人間のパートナーであり、共に暮らす家族の一員である。定められたルールに従えば、シンガポールでも日本同様に誰でもペットを飼うことができる。一般的に飼われる犬、猫、ハムスターやウサギなどの他、その役割を果たす動物たちは多種多様だ。風水の縁起を担ぐために亀や魚、その年の干支にちなんだ動物を飼う家庭やオフィスもあるほどだ。我々のコミュニティーの中においても、日本からの赴任や転居に伴って帯同してきたペット、またシンガポールで新たに加わったペットと共に暮らす家族も多い。シンガポールのペット事情を、シンガポールでペットを飼うためのルールとペットが直面している実情を垣間見ながらお伝えする。
目次
シンガポールのペット事情~責任ある飼い主になるために
シンガポールでは、国が豊かになり、人々の暮らしにゆとりが生まれることでペットブームとなり、年々その数は増えている。ライフスタイルのステータスとして重宝がられた結果として、今や国内には270件を超えるペットショップがあり、年間1千万ドル規模の産業に成長した。
ペットは、自由貿易協定の一項目でもあり、海外からの血統書付きのものや珍しい種類のものも手に入るだけでなく、ローカルのブリーダーが育てた子犬や子猫など、比較的安く購入することもできる。
国内の公園やドッグランなども整備され、ペットと生活を楽しむための環境も整いつつあるようにも見える。
その裏で、ペットへの虐待、放棄された犬や猫の数が増加し、衛生上の問題が発生するなど様々な社会問題が指摘されるようにもなった。景気低迷の昨今、いうまでもなく、この数も増加の一途をたどる。
AVA(シンガポール農食品・獣医庁)のデータから、犬の状況を見てみると、全てのペットの犬に取得が義務付けられている一年更新のドッグライセンスについて、2008年に新たに申請された犬が13,527匹、更新された犬が45,314匹おり、併せて58,841匹に対してライセンスを発行した。前年比で4,000件以上も増えている。その裏で、同じく同局に引き取られた捨て犬についても2,190匹いた。
これに動物愛護福祉団体のSPCA(動物虐待防止協会、Society for the Prevention of Cruelty to Animals)に同時期に寄せられた捨て犬2,970匹の数字を足すと、少なくとも犬だけで5,160匹いた計算になる。
これらに持ち込まれた犬は、放置された捨て犬のほか、飼い主の経済的理由から病気やけがの治療費を負担できずに手放されたり、躾ができず手に負えなくなったという理由で持ち込まれたケースがほとんどである。
SPCAによると、犬のほかに猫、ウサギ、モルモット、ハムスターなどの小動物を含めて8,028件の不要とされた動物達のうち、もともとの飼い主からの申し出による引き取りが881件、新たに里親に引き取られたのは1,177件のみである。残りは、動物の年齢、健康状態、精神状態などの理由から、安楽死の注射を打たれ処分された計算になる。
そういった現状を受けて、シンガポールにはいくつかの動物愛護団体が生まれ、日々熱心な活動を行っているが、不要とされる動物の圧倒的な数に、対応に追われる状況が後を 絶たない。
この状況を改善するために、絶対数の減少のための去勢・避妊手術の徹底、家族としてペットを終生飼い遂げる責任を持つことを推進するキャンペーンが積極的に行われ、ペットショップやペット販売業者のモラル向上、動物虐待への取り締まり、違法ペット販売業者への取締りなどの政府の対策の強化が働きかけられている。
可愛いから、子供が欲しがるから、淋しいから、とペットを飼う動機はさまざまだが、ペットが生き物である以上、根気の要る躾トレーニングや、健康管理にも労力と金銭がかかる。
また、日本へ戻る予定があるとしたら、そのための輸送費なども無視できない。責任あるペットの飼い主として、または飼い主となるために、小さな命について、一度じっくり考えてみる必要がありそうだ。
シンガポールの動物愛護団体からのメッセージ
シンガポールの動物たちの現状を改善するために活動する団体のうち、2団体をご紹介する。ペットの里親探しも積極的に行われているので、これからペットを飼う際は、ひとつの選択肢として考えてみてほしい。
SPCA(Society for the Prevention of Cruelty to Animals)
世界中にネットワークをもつSPCA(動物虐待防止協会)のシンガポール組織で、国内で唯一チャリティー団体として認可されている非政府系の動物保護団体。
イギリスに端を発し、シンガポールでは、植民地化した直後の19世紀にはRSPCA(王立動物虐待防止協会)が、早々に活動を始めていたとされ、1984年に現在の動物保護施設ができた。
犬や猫、小動物などのペットから野生動物、畜産動物まで全ての動物を対象としており、その活動範囲は、遺棄された動物の里親探し、動物保護施設の運営、24時間体制の野生動物救助、各種のキャンペーン活動と幅広い。
エグゼクティブオフィサーのデアドラ・モスさんは、「SPCAの長年のキャンペーンや教育活動を通して、ペット愛護の認識は高まっているといえます。ペットが健康に暮らせる住環境を整える意識が低い飼い主が多い現状を疑問視する人が増えたことで動物虐待のレポート件数も増えています」という。
SPCAは、持ち込まれた動物を拒絶することなく全て引き受けるというポリシーのもと運営されている。そのため、月に700もの動物たちを保護する現実がある。「胸を痛めるのは、保護施設にも限界があるため、虐待や放置を経て身体や精神面に問題を抱え、他の動物や人間に害を与える可能性のある多くの動物のラストストップである我々が、その多くを眠らせなければならないことです」と語る。2012年に向けて、現在の場所からの移転が計画されており、更に広いスペースの保護施設や、ペットと飼い主のためのトレーニングプログラムや、相談窓口の充実をはかることで、動物福祉と愛護を一層働きかけていく予定だ。
SPCA主催のイベントや躾トレーニングコース、ボランティアの募集などはウェブサイトに随時掲載されている。
ASD(Action for Singapore Dogs)
ASDは、シンガポールにて2000年に立ち上げられ、2002年にソサエティー団体として登録された動物愛護団体。AVAやSPCA以外では民間で最大規模の動物保護と啓蒙活動を行う。
活動はすべて募金で賄われており、シンガポールで見捨てられた犬を一匹ずつ確実に救うことを目指し、独自の保護施設で常時80頭の犬を収容している。20~30名の一般のボランティアを中心に保護施設での犬の世話、募金活動、犬の生活相談を随時受けるなど積極的な活動を行っている。
プレジデントのリッキー・イェオさんは、「犬と生涯付き合っていくことを大前提に、犬の飼い主や一般社会に向けて命の大切さを訴えてきました。幸い、犬の保護施設を持つことができ、献身的なボランティアや活動資金となる募金も徐々に集まることで活動を続けることができています。我々は老齢やけがを負った犬にもできる限りの治療やケアをし、再び家族の一員として迎えられるよう最善をつくすことをモットーとしています」という。
ASDは、けがを負い身体に障害をもつ犬に対しても、国内外で引き取り先を探す努力をするなど、徹底した活動が特徴。今後の活動について、「実際の生活に犬が加わると、さまざまな問題に日々直面します。それを逐一相談できるところがあれば、諦めることなく犬と向かい合えるはず。そんな相談窓口を目指して、例えば犬の心理学を踏まえたトレーニングコースを行ったり、犬の代替医療などの分野の情報蓄積も進めています」と語る。
ASDの募金活動を兼ねた各種イベントや、ボランティアグループへの参加については、ウェブサイトを参照のこと。
シンガポールでペットを飼うための基礎知識――犬猫の場合
狂犬病などの管理のため、生後3ヵ月以上の犬を飼い始めたら、政府に登録してドッグライセンスを取得する義務がある。AVA(Agri-food and Veterinary)のホームページからオンラインで登録できる。ドッグライセンスが発行されると、鑑札が送られてくるので、犬の首輪に付けておく。毎年の更新が義務付けられ、更新通知のはがきが来たら、随時オンラインで更新する。登録・更新の不履行は、最大で$5,000の罰金が科せられる。
シンガポールでは、家主との住宅賃貸契約でペット飼育が禁止されているケースは少ないが、事前にペットを飼育する旨を伝える必要がある。賃貸期間中にペットがつけた傷や汚れなどは、退去の際に修復義務を負う。HDBの公団住宅では、1軒につき飼える犬の頭数と大きさが決まっており、チワワやパグ、トイブリードなどの小型犬のみで1匹まで、また、猫の飼育は禁じられている。その他コンドミニアムや一軒家などの私有の住宅においてはその限りではないが、犬は3匹までとなっている。
また、マレー系、パキスタン系などのムスリム教徒にとって、犬は、教義上不浄とされているため接触を避けるなど配慮が必要だ。また、レストランやホーカーセンター、そして生鮮品市場では、環境省で定められた衛生管理の規定により、犬や猫は立ち入り禁止となっている。
シンガポールへ日本からペットを持ち込む場合、十分な事前準備が必要となる。また、大型犬のビットブル、秋田犬、土佐犬、ナポレオンマスティフ、およびそれらの血統が入っている犬は輸入できないこともある。
シンガポールへペットを持ち込む際と同様、十分な事前準備が必要となる。
ASDでボランティア活動をする日本人ビジネスパーソン
川村千秋さんのメッセージ
シンガポールでビジネスをさせていただく者として、同じボランティアをするのであれば、この国の人達と共にこの国の役に立つ活動をしたいと思っていました。縁あって、来星前から日本で携わっていた捨て犬の保護活動を続ける場に出会い、唯一の日本人ボランティアとしてASDの活動に参加して2年目になります。
愛らしい姿ゆえ“商品”として取引される犬たち、単に痛い思いをさせたくないという短絡的発想から避妊手術をさせず産ませてしまった仔犬が施設に持ち込まれる例、昨今の不況でメイドを解雇したから世話する人が居なくなった、転居先や帰国などの理由により飼えなくなったという理由だけで簡単に捨てられてしまう犬たち。この2年間にそうした例を沢山見てきました。
小型犬であれば15年、大型犬でも10年程度は生きるのが犬です。可愛いから、海外生活で寂しいからという理由で飼う前に、家族でこの先10年以上に渡って家族の一員として終生飼育をする覚悟があるかどうかを話し合って欲しいと思います。
私自身は1年半ほど前、虐待と飼育遺棄の状態にあったオスの雑種犬を引き取りました。朝、まだ暗いうちに散歩に行き、帰宅後は遅くなっても雨が降らない限り散歩に連れて行きます。出張の際は有料施設に預けますからお金もかかります。しかし、どんなに疲れて帰宅しても目を輝かせて嬉しそうに出迎えてくれる彼を見ると一日の疲れが吹き飛びます。嬉しい時も悲しい時も常に傍らにいてくれるのが彼です。人間に裏切られ苛められた過去があっても、自分を愛して大切にしてくれる人間には全幅の信頼を寄せてくれる。そんな動物の純粋さに救われ、そして教えられることが多い毎日です。
犬を世話し続けることは簡単なことではないので誰にも勧められることではありませんが、その決意があって環境が許すなら、この喜びを知っていただきたいと思います。そしてその時には人間に裏切られたシェルターの犬たちに是非、愛される第二の人生を与えてあげて下さい。
障害犬ヤフーくん、アメリカの里親への旅路コンパニオン募集!
昨年ASDに引き取られた当時は、飼い主から熱湯をかけられたり暴行の後がひどかったものの、十分な治療とボランティアからのケアを経て、身体も心も元気を取り戻したヤフーくん。この度、USのマサチューセッツ州に里親が見つかり、一刻も早い旅立ちの日をまっている。ASDでは、近日中にボストンかニューヨークへ発つ人で、手荷物としてヤフーを運んでくれる人を募集中だ。
輸送に必要な書類や手続き、費用は全てASDが受け持つので、運んでくれる人は、ほぼ空港でのチェックイン、アウト作業のお手伝いのみとなる。
協力頂ける方は、ASDまでご連絡を!(E-mail : info@asdsingapore.com)
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.155(2009年10月19日発行)」に掲載されたものです。
文= 桑島千春