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藤堂のシンガポール建築考

2015年10月5日

見え隠れする風水都市、シンガポール

 職場近くのサンテック・シティを歩いていると、ある種の違和感を覚えた。違和感の正体は、世界最大級の大きさを誇る噴水に隠された風水だった。正確に言えば中国・広東省の風水で、噴水の5つの塔は指を表し、中央の水は富を、輪はそれを引き留める意味がある。
 
 シンガポールは多民族国家という体裁を取っているが、実際は住民の7割以上が中華系であり、最大の影響力を持っている。だが、体裁のためか、1つの民族的な特徴をあまり前面に出そうとはしない。故に、興味を持って調べないと、街の至る所に隠された風水的記号は見えてこない。

 

風水における数字の意味

 風水とは古代シナの思想である。建物の吉凶を占うもので、気の流れを建物の形で制御する思想だ。他にも数字を用いる方法など、地方により思想に差異がある。
 
 風水の中で一番分かりやすいのが数字である。特に好まれる数字が2と8。合わせて28として使われる事が多い。2と8に次いで9が一般的に好まれている。2は「両」と読み、ペアのものを表し、幸運を呼ぶ。8は「発」の音に近く、無限を表す事から富を象徴する。9は充足の意味がある。逆に嫌われている数字は「死」に音が近い4が避けられる。これは日本でも同じである。
 

シンガポールにおける風水を意識した建築

 数字で有名な建築物には、黒川紀章が2008年8月に完成させた、シンガポール・フライヤーがある。カプセルの数は全部で28個。カプセルごとの最大定員数は28名。ちなみに、この車輪は当初回転する方向が外向きだったため、富が外に流れると風水師から警告を受けた。その年は偶然にもリーマンショックがあり、シンガポール経済も大打撃を受けた。慌てて車輪の回転を逆にすると、今度は富が流れ込むようになったらしく、その後は順調に経済が成長した。
 
 よくある高層ビルの平面に八角形がある。黒川紀章の設計したリパブリック・プラザや丹下健三の設計したUOBプラザなどである。驚くのはこの2つの建物、高さが両方とも280メートルであるということ。ちなみにシンガポールで最高層となる予定のタンジョンパガー・センターは、高さ290メートルになる予定だ。八角形の建物には、コンコースやタングスも含まれる。

写真で見ると、リパブリックプラザ(写真左奥)、OUBセンター(写真中央奥)、UOBプラザ(写真右)の3つの建物が等しい高さで並んでいるのがわかる。

 

建物に隠された風水の文字

 シンガポールで活躍し、風水と深い関わりを持つ建築家に中華系アメリカ人のイオ・ミンペイがいる。大規模ながら洗練された設計で知られており、一般にルーブル美術館のガラスのピラミッドを設計した建築家として知られている。彼はシンガポールで3つの著名な作品を残した。ザ・ゲートウェイ、ラッフルズ・シティ、OCBCセンターだ。これらの作品はほぼ等間隔で一直線上に並んでいる。ザ・ゲートウェイは平面で見ると漢字の「八」、ラッフルズ・シティは平面で見ると吉兆を意味する「卍」、OCBCセンターは立面がお金を象徴する「貝」の字になっている。それらは3つで湾岸部の結界を構築している。
 

風水を重視する建築プロジェクト

 風水的にザ・ゲートウェイの鋭い形は向かいの敷地に悪い気をもたらす。そのため、政治的な要因とともにその敷地は長い間、放置されていた。今、ここで開発が進むDUOというプロジェクトは、この悪い気を、曲線を用いる事で受け流す意匠になっている。
 
 他の有名な場所で私が認知している風水を取り入れた建物にマリーナ・ベイ・サンズがあり、3つの塔は漢字の「山」を見立てており、外から来る悪い気を防いでいる。上部にある船は学生帽を表しているそうで、革新を促すという。その他にも大小無数の風水的記号が街中にあり、意識をすれば街が違って見えるだろう。
 
 設計の現場では、中華系のクライアントの場合、風水コンサルタントが入る事があり、水盤の位置を指示されたり、2や8の付く階に重要な部屋、例えばメゾネット部屋やスイートを入れることがある。設計者としては頭を悩ませる点だ。

新しいプロジェクトDUOは、2017年に完成予定。
(写真提供:DUO by Ole Scheeren © Buro-OS)

 


文=藤堂高直(とうどう・たかなお)
シンガポールの設計事務所DPアーキテクツに所属する建築デザイナー。16歳で文字の読み書きが困難な学習障害の一種「ディスレクシア」と診断されるが、卓越した空間把握能力を発揮。2008年英国の建築大学AAスクールを卒業し建築家として開花。当地ではホテルや美術館などの設計に携わってきた。自らの半生を記した著書『DX型ディスレクシアな僕の人生』も出版。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.289(2015年10月05日発行)」に掲載されたものです。

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