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熱帯綺羅

2018年8月28日

レトロな瓦屋根、クールな近未来…シンガポールのバス停たち

 バス停でバスを待つ間は、あなたにとってどのような時間でしょうか。乗車予定のバスが何分後に来るかを確認すべく、携帯電話とにらめっこしている人が多いかもしれません。筆者は在星歴が浅い時、降車する停留所が分からず路線図を見ていただけで、親切な地元の人が「どこに行くの?」と助けてくれた経験が何度もありました。バス停が意外にも、地元の人々の人懐こい性格を知るきっかけとなり、彼らとのしばしの交流を楽しむ、そんな場所にもなったのです。
 
 デジタルサイネージ、携帯電話充電ステーション付き停留所へとバス停がどんどん進化している昨今。でも、その昔は雨をしのぐ屋根もなく、疲れた足を休める椅子もない、ただのポールが目印としてぽつんと立っているだけだったとご存知ですか?バス停と、バスを待つ人々の姿は、今と昔でどう違うのでしょうか。今回は、1950年代から着実に変化してきた、シンガポールのバス停の進化についてお届けします。

 

1980〜90年代 トタン屋根バス停 写真提供:Wilson Loo

 

1950年代は「むきだし」のポール

 1950年代はじめのバス停は、バス路線の数字が示されたプレートがくっついたポールが、道端にむき出しで立っているだけでした。屋根も椅子もありません。『National Archives of Singapore(シンガポール国立公文書館)』に登録された当時の貴重な写真を見ると、街中にぽつんとたたずむ停留所の周りでバスを待つ地元の人々が、整列せず無造作に群がる様子が残されています。それが1950〜60年代にかけて、初めて屋根付きの停留所が登場。女学生が雨宿りをしながら友達とはしゃぐ様子など、そこでひとときを過ごす人間の交流の場所として機能していた様子も伝わってきました。当時のままの停留所が、タンジョン・パガー・ロードに残されていて、今もバス停として機能しています。オレンジの瓦屋根が特徴で、趣きと重厚感をひときわ感じるバス停です。

 

ジュロン・イースト、ハイテクバス停の停留所標識
瓦屋根が残るタンジョン・パガー・ロードのバス停。1950〜60年代

 

「キュー」整列が始まったのは1969年!

 シンガポールで日々耳にする、イギリス英語の「Queue(キュー)」。「キュー」するコンセプトが導入されたのは、1969年です。『National Safety First Council of Singapore(シンガポール全国安全評議会)』が実施した“Operation Q(オペレーション・キュー)”キャンペーンで、バスを待つ人がきちんと整列するための啓蒙活動が行われました。1980〜90年代になると、バス停はオレンジと白のボーダー柄のトタン屋根が印象的なデザインに変化。この様式のバス停は、今もシンガポールで保存されている場所が多々あり、地元の人が特に郷愁を感じるようです。そこから、周辺環境とのなじみが意識される様式となった1990年代。少し無機質、クールなデザインになっていきます。例えば、スコッツ・ロードにあるファー・イースト・プラザのバス停は半円型の透明なプラスチックの屋根から日光が入るデザインで、ショッピングセンターから連結して景観に見事に溶け込んだバス停となっています。

 

1990年代からの機能性重視デザイン

 

待ち時間が楽しい!現在のハイテクバス停

 現在のバス停は、グレーの屋根に待合椅子が配置された無駄のない様式。特筆すべきは、ジュロン・イースト・セントラルのバス停。ジュロン・レイク地区をモデル地区と選定した“Project Bus Stop”という名称のプロジェクトに基づき、ハイテクバス停として2016年8月に試験的に導入。フリーwifiと携帯電話充電ステーション、地元の人のランドマークが描かれたイラスト、『National Library(シンガポール国立図書館)』によるデジタルボードは手持ちの携帯端末でQRコードをスキャンして新聞、雑誌などの記事が読めるQRコード付き、など“待ち時間を楽しく過ごす”ことをコンセプトに作られています。従来の機能性を追求したバス停を、もっと独創的でソーシャルスペースとして機能するように、新たな利用価値を生み出しています。今年の2月をもって試験導入が終了しましたが、実際に行ってみたところ本棚など一部機能が残されており、待ち時間に利用する人々が見受けられました。

 

ジュロン・イースト、ハイテクバス停の待合スペース、図書コーナーつき

 

 さて、1996年にシンガポール政府が“A Social Contract(社会契約)”において今後10〜15年における都市交通計画骨子の一つとして発表したのが、公共交通機関の充実度をワールドクラスにするために、例えば“国民の1日における移動手段の75%を公共交通機関にする”というターゲット。自家用車利用者を公共交通機関へシフトさせるには、MRTやバス、バス停のアップグレードが欠かせないため、バス停の進化は今後も加速するはずです。今も昔も変わらないことは、バス停は単にバスを待つ場所ではなく、ちょっとした他人との交流や、新しい情報に触れる場所になり得ること。そのコンセプトを、ローカルの人が大切に考えていること。そんなことを考えながら、今日もバスに揺られてみたいと思います。

取材・写真: 舞 スーリ

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