2010年3月15日
トロピカルをぎゅっと絞る、 ミクソロジストのいるバーへ
シンガポール初の「ミクソロジスト」
ミクソロジスト(mixologist)とは、バーテンダーの域を超え、枠にとらわれない自由な素材を使ってカクテルを創作するプロのことで、飲料メーカーの製品を使ったカクテルのレシピ考案など商品開発を含めたコンサルティング的な業務も請け負います。
日本では、現在も銀座や青山にカクテルバーの直営店を4店舗経営する他、店舗プロデュースのアドバイザーや、カリスマ的ミクソロジストとして引く手数多だった北添さん。現在ではシンガポールのOrgo Barのバーカウンターでその時間とエネルギーのほとんどを費やします。北添さんは、果物やハーブを中心としたフレッシュな素材でカクテルを作るため、その旬と鮮度へのこだわりから、日本では果物店を経営するほど。「シンガポールでは、日本では手に入りにくく、高価なトロピカルフルーツがいつでもふんだんに使えるのが嬉しい。ただし、アルコールは高めなので、日本と逆ですね。」という。カクテルは、人工の着色料や香料、市販のジュースは一切使わず、お酒も上質なものをと、ウォッカならフランス製のプレミアムウォッカを使用。その柔らかな味わいが、新鮮で爽やかな果汁に馴染み、上品な味わいのマティーニを生み出します。日本では、洋酒メーカーのブランド大使や、エルメスやアルマーニのイベントなどのためのシャンペンに変わるカクテルを考案した経験も豊富な北添さんは、シンガポールでのカクテルの新しい可能性を広げてくれそうです。
ミクソロジスト北添さんのこと
宮崎県出身の北添さんは、俳優志望で上京した後、国際バーテンダー協会の副会長を長年務め、世界的に知られる銀座の老舗バーのオーナー澤井慶明氏のもとで1990年から修行を積みました。その後、イタリアンシェフなどの経験や、バーテンダーとしての更なる研鑽を経て、ミクソロジストとなりました。北添さんが師と仰ぐ澤井さんは、シンガポールにバーテンダーの学校を開いたこともあるそう。「それがシンガポールという国を認識した最初かも」としながら、澤井さんが北添さんに最初に作ってくれたモスコミュールが、ロイヤルセランゴールのピューター製のマグに入っていたことも縁だったのかな、と回想します。
当面の目標は、「Orgoをシンガポールで一番と呼ばれる店にする」こと。現在、近隣諸国への出店計画もあるものの、人材育成がビジネスの成功に欠かせないという北添さんは、まずは一流のサービスを提供できるスタッフを育成中。「40才になったら海外に店を持つという目標を、良きパートナーに恵まれてシンガポールで叶えることができたのも、日本の店を十分任せられるスタッフがいてくれたからなんです。」と語る。
日本に残している家族のためにも、世界一のミクソロジストを目指すという北添さん。念願のニューヨークへの出店も目指しつつ、その挑戦は続きます。
Orgo Bar & Restaurant
1 Espranade Drive Roof Terrace The Esplanade Singapore 038981
TEL:6336-9366
E-mail:info@orgo.sg
文= 桑島千春
写真=Eugene Chan
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.163(2010年03月15日発行)」に掲載されたものです。