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熱帯綺羅

2011年1月1日

娘惹達の足元を彩る伝統の技プラナカン・ビーズ・サンダル

 

プラナカンのビーズ刺繍の伝統を守る店

プラナカンの人々の間でも失われつつあるビーズ刺繍の伝統を守っているお店が、カンポン・グラムにあります。“Little Shophouse(小店屋)”と名づけられたその店の店主・ロバートさんは、現役時代はエア・クルーとして勤務し、定年退職後、8年前にこの店を始めました。「僕はチャイニーズでプラナカンではないんだけど」というロバートさんですが、骨董品が好きで長年かけて収集してきたコレクションの中にプラナカンの陶器なども多数あるそう。また、幼い頃から周りにいた大人たちがやっていたプラナカンのビーズ刺繍を見て、その技術を覚えたそうです。「ビーズ刺繍自体は決して難しいものではなくて、基本はクロスステッチ。ちょっとしたコツをつかめばできます。あとは緻密さと根気強さがあれば、誰でも作れますよ」とのこと。ただ、その緻密さと根気強さを持つ熟練者の手によって90時間かけてでき上がるのは、ビーズ・サンダル一足分の刺繍。実際には誰でも、という訳にはやはりいかなそうです。

手作りで質の高いプラナカン・ビーズ・サンダルには、1000Sドル前後の値が付くものも珍しくありません。ロバートさんの店の棚にも、華やかな刺繍が目を引くビーズ・サンダルがずらりと並べられていますが、実際に売れることはまれ。「皆さん、値段を見てビックリするんですよね。でも、このビーズ刺繍を仕上げるためにかけられた作り手の膨大な時間や労力、技術力を考えると安売りはできないんです。これらのビーズ・サンダルに価値を見出して、この値段で見合うと考えてくださるお客様がお買い上げくだされば、それで良いと思っています。」

ビーズ刺繍に興味を持った人には、妹さんが店を手伝ってくれる水曜日と日曜日に、ロバートさんが直々にビーズ刺繍を教えています。マン・ツー・マンでの計7時間のレッスンと、刺繍に使うフレーム、ビーズ・サンダル一足分のビーズと糸、布などの材料費込みで320Sドル。「一度に一人しか教えません。何人もいると、おしゃべりばかりになってしまうでしょう?プラナカンのビーズ刺繍が好きな人に、純粋に自分で作る喜びを味わってもらいたいんです。」レッスンの申し込みの前には、一度必ずお店に来てもらってビーズ・サンダルを実際に見てもらい、時間と労力をかけても自分でこれを作ってみたい、と思った人には好きな色やデザインのパターンを決めてもらって、レッスンの日を調整します。最初の5時間のレッスンは一度に集中して行われます。その後は持ち帰って作業を進めてもらい、わからないところなどを残りの2時間で教えながら仕上げるそうです。

刺繍に使うフレームはねじで簡単に締め付けられる便利なものがありますが、糸をフレームに巻きつけて布を張る伝統的なスタイルが一番良い、とオリジナルの方法にこだわっています。デザインのパターンもプラナカンの伝統的なものを収集、複数のパターンを組み合わせたり、独自のアレンジを加えて作っているそうです。

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プラナカンのビーズ刺繍に使われるのは、サイズ15~18という直径が1ミリ少々しかない、かなり小さなビーズ。

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ビーズ刺繍を施すロバートさん。穏やかな笑みが印象的

店の中にあるのは、ビーズ・サンダルのほかに、ロバートさんや妹さんが製作したビーズのネックレスなどのアクセサリー、自ら買い付けてきたプラナカンの陶食器、工芸品など、ロバートさんのお眼鏡にかなったお気に入りの品々ばかり。「10年後も、自分の好きなモノたちに囲まれて、この店にこうしていられたらいいなと思っています。もちろん先のことはわかりませんけどね。」

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サルタン・モスクのすぐ手前のショップハウスの並びにロバートさんの店“Little Shophouse(小店屋)”がある。

文= 石橋雪江
写真=石橋雪江

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.181(2011年01月01日発行)」に掲載されたものです。

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