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熱帯綺羅

2012年5月21日

ノスタルジックな風景にモダンが映える「アンシャン・ヒル地区」

 

アンシャン・ヒルは、今も昔も人々が集うところ

Screen Shot 2015-07-30 at 1.10.40 pmアンシャン・ヒル地区のショップハウスが並ぶ通りの外観はほぼ以前のままですが、今やその内装のほとんどは現代生活に合うよう改装され、洒落たカフェやレストラン、デザインオフィスなどが多く入居しています。特にアンシャン•ロードのショップハウスは、プラナカン達(中国人とマレー半島の地元の女性の間に生まれ独自の文化を持つ人々)が好んで使ったヨーロッパからの花柄タイルで装飾されたり、個性あるファサードを持った建物が多く、その瀟酒な趣きが、ヨーロッパブランドのセレクトショップやブティックホテルにもぴったりな雰囲気。ここにしかない町並みと空気を楽しみにクリエイターや高感度な人々が続々と集まることで、ますますコスモポリタンの様相を強め、世界中の観光ガイドブックなどにもよく紹介されるまでになりました。

 

そんな時代の波にもまれるも、上述の会員制クラブやアンシャン・ロードにある会館は、カフェやブティックと隣合わせながら、いくつか現存しています。5フィートの幅に統一されたひさしの下を歩くと、「海洲会館」、「天河同郷會」、「寧陽会館」などと書かれた立派な看板があり、中から麻雀の音が聞こえることもあるでしょう。快く中に通してくれた「清遠会館」を覗くと、設立から86年間の歴代の会員の顔写真が並び、会館へ寄付をした人々の名前、故郷を謳う書や水墨画が掲げられています。

 

以前は、旧正月や祝い事がある折は、この界隈に多くの人が集まり、それぞれの会館で催事に参加したり、競い合うように演じられるライオンダンスを見物したりしました。今では、訪れる会員達も70〜80歳代が中心。麻雀をしたり、お茶を飲みながら方言で昔話を語らう静かな日常があるのみだといいます。

 

国内の人口の7割以上が華人とはいえ、融合政策とシンガポール国民としての意識の高まりから、会館を囲んで中国本国の縁ごとに集う習慣は、当地ではほぼ消滅し、高齢者の間に残るのみです。とはいえ、人々が集う場を束ねるこの地区の役割だけは、偶然にも形を変えながら今に受け継がれており、これからも広く愛される町並みであり続けるでしょう。

 

Ann Siang Hill

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.212(2012年05月21日発行)」に掲載されたものです。
文= 桑島千春
写真=Eugene Chan

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