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熱帯綺羅

2013年8月15日

100年後に今ある文化財を継承するために

 

修復師の仕事場から

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HCCには、収蔵庫のほか、コレクションの管理部門と、絵画、テキスタイル、紙、家具や金属製品などの立体物の修復作業を行う保存修復部門があります。ラボには約30名の修復師がいますが、テキスタイル部のリーダーは、日本人修復師の小松未来さん。「修復の仕事は、作品の美的・概念的・物理的オリジナリティーの保存、必要最低限の介入、修復処理の可逆性が三大原則です。我々は100年先まで現在の状態で作品を保てるようベストを尽くす。その頃には技術が進み、作品から何か歴史的発見ができたり、更にいい状態で修復し直すことが可能になるかもしれないからです。歴史的に貴重な作品に間近で関われる喜びと同時に責任もあります。」

 

 

修復師は手を動かすだけの職人ではなく、作品の記録、修復の計画立案と実行、保存方法の決定、展覧会開催時にはキュレーターと共に作品をベストな状態で展示する方法を考えます。そのため、科学や美術史・美術批評を理解し、インターンを含む修復の実践的教育を経て、一人前になるには10年かかると言われる専門職です。シンガポールには修復師を育成する教育機関がなく、海外から専門家が招聘されたりシンガポール人修復師のアシスタントを海外へ研修に送るなどして、国内の修復師を育てる努力がされています。

 

 

近年HCCの取り組みを展覧会と共に紹介する機会も増え、修復の仕事に興味を持つ人も。取材に訪れたこの日、出版社でライターをしていた20代のシンガポール人女性が、特殊な針と糸で初歩的な縫い方を練習する姿がありました。アジア文明博物館の展覧会でインタビューしたのをきっかけにこの職業を目指すことにしたとか。「奥が深く、何より大好きなアートと歴史のそばで仕事ができる」と目を輝かせて語ってくれました。

 

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ヘリテージ・コンサベーション・センター(Heritage Conservation Centre)
ウェブサイトに収蔵品の閲覧システム「SGCOOL」あり、またHCC内ガイドツアーの事前予約もこちらから。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.239(2013年08月05日発行)」に掲載されたものです。
文= 桑島千春
写真=Eugene Chan

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