2014年10月6日
シンガポール人に学んだ「degrade」の考え方
NOHARA PTE. LTD Overseas Business Division Leader 藤井 崇氏 業種:建設資材販売
建設資材の販売会社である当社は、昨年7月にシンガポール進出したばかりです。私はスタートアップと事業開発のためローカル企業に出向しています。シンガポール人の社長、中国人の事務担当、ベトナム人とフィリピン人のエンジニアという多国籍チームです。
このところ政府入札へ参加するため入札要綱に目を通す機会が多々あります。日本でも同様の仕事は経験したのですが、日本のものは「○○でなくてはならない」や「○○以上のものとする」など厳格に規格が規定されています。一方、シンガポールの内容には「遊び」があります。極端に言うと読んだ人の解釈次第で内容が変わってくる訳です。
日本の様式に慣れ親しんだ私は当初大いに面食らいました。恥を忍んでお話ししますがそこに明確な指示がないので、どうしていいか判断がつかなくなった訳です。半ば混乱状態の私は出向先のシンガポール人の社長を捕まえあれこれと質問しましたが、「それは大丈夫だ」「そんなことは気にするな」といなされてしまいます。私としては正直「なんていい加減なんだ」と思いましたが、入札書類が完成するにつれ彼の言っていることが理解できるようになりました。
その入札はローカル企業名で提出するものだったのですが、社長としてはディティールにこだわるより全体として要綱に沿った上で受注できるシナリオをもっていた訳です。ディティールにこだわっていた私はあれこれと余計なスペックを盛り込み結果として「ガラパゴス携帯」のようなものを目指していた訳です。木を見て森を見ずということです。シンガポール人の仕事の進め方に納得して以来、変なこだわりは持たないようにし、「シンプルイズベスト」を心がけようと努力しています。
最近読んだビジネス書で「degrade」という考え方を知りました。通話しやすさに特化した日本の高齢者向け携帯電話や、散髪だけに特化した格安床屋などがそれに当たります。ネガティブなイメージの言葉ですが、利用者からすると余計なものを取り払い使いやすさや低価格を実現したシンプルでユーザーフレンドリーなビジネスです。私自身もまさに考え方の一部をデグレードしなくてはならないのかと思います。
シンガポールで仕事をさせて頂いている日本人として何が本当に求められているのかをよく考えた上で、求められていない部分は切り捨て残りのエネルギーをコアな部分に集中させる。解っていても今はまったくできていないのですが、少しでもデグレードできれば社長や同僚とともに何か新しいバリューを生み出せるのかなと我ながら期待している今日この頃です。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.266(2010年10月06日発行)」に掲載されたものです。