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ビジネス人事・雇用相談室

2019年6月25日

活躍する社員をいかに引き止めるか

~自社の特徴を理解し、会社としての魅力を高めるステップ~

 

個人業績に応じた評価/等級制度の導入
――本当にそれが正解ですか?

 
 「最近若い人、特に活躍しているメンバーがどんどんやめていく。シンガポール人の考え方に合わせて人事制度の見直し(職務内容、目標の明確化、等級制度の変更など)を考えているのだが・・・」と、よく日系企業ダイレクタークラスの方々から相談を受けることがあります。その打ち手は「正解」でもあり、「不正解」でもあります。つまり、「その企業の目指す方向やEmployee Value Proposition(EVP:企業が従業員に提供する価値)次第」です。組織のマネジメントをしながら、トップパフォーマーの退職に直面する度に自らにも問うています。「うちの会社の、そして我が部署のEVPは何か」と。会社のトップパフォーマーは何を期待して、入社したのか?会社の何に満足して今まで働きつづけてきたのか?その答えを考えることが、活躍する社員のリテンションの第一歩につながるのです。
 

EVP=従業員価値提案とは何か

 
 EVPは、マッキンゼー・アンド・カンパニー監訳の「ウォー・フォー・タレント」という書籍をきっかけに有名となった概念です。「社員がその企業にいる間に経験し、受け取るすべてを総合したもの」と定義されています。企業がこのEVPを高めることにより、優秀な人材を惹きつけ、引き止め、また社内の人材のパフォーマンスを最大化し、結果、会社全体がより高い業績をあげていくことができるという考え方です。
 
 EVPを高めていくステップは、1.現状のビジネス人事・雇用相談室 ~活躍する社員のリテンション~把握、2.価値の明確化、3.価値の強化と伝達です。
 
ステップ1 現状の把握
 
 まず、現在活躍している従業員は会社の何を魅力に感じて働いているかの理解が大切です。いくつか網羅的な質問項目を作
り、社内でサーベイを実施して数値化してみましょう。例えば、「自分の業績を反映した報酬」への期待度、満足度を5段階で評価してもらう。様々な切り口から質問項目はつくれますが、戦略、事業、仕事、風土、人材、環境、待遇などの切り口が一般的です。
 
ステップ2 価値の明確化
 
 ステップ1から会社の魅力を発見したら、社員からのヒアリングを経て得たその価値を自社のオリジナルな表現で言語化します。例えば、JACの場合「親しみやすい仲間」、「チームワーク」、「親身で、スピード感のある対応」、「業績に応じた報酬体系」といったキーワードが特徴です。この特徴こそが、今活躍する社員たちが入社した理由でもあり、働き続ける理由となります。これらのバリュー、自社の強みであり、今後も磨きつづけるべき会社の価値です。
 
 留意点は、外資系大手で働く人材と、日系企業で働く人材が感じる会社の魅力が異なる点です。外資系大手エージェントの調査によると、シンガポール人が重視する項目は、トップ3が、1)業績に応じた金銭的報酬、2)リーダーシップがあり、モチベーションを高めてくれるマネージャー、3)研修など能力開発の機会です。一方で日系企業は、1)製品サービスが良い、2)雇用が安定している、3)知名度がある・イメージが良い、4)組織の規律やマナーが良い、5)法令順守の姿勢が強いです。ここで、冒頭の「シンガポール人の考え方に合わせて人事制度の見直し」はするべきか否かについてですが、それは、皆さまの企業のEVPに制度を変更することがマッチしているのか次第。世間一般的に言われる金銭報酬を第一とするシンガポール人のイ
メージと、皆さまの会社のシンガポール人は違う可能性があります。「社外」のベストプラクティス導入を検討する前に「社内」の現状把握から進めてみることをお奨めします。
 
ステップ3 価値の強化と伝達
 
 自社の魅力の言語化ができれば、それを磨き、活躍している社員にも伝えていきましょう。その魅力が活躍している社員の期待に沿えているのであれば、他社に転職しない理由となるからです。「伝える」というのは言葉だけでなく、施策や仕組みをもって伝達していくことです。例えば、家族的な風土を強みとしてもつ企業なのであれば、Family Dayなど、従業員の家族も巻き込んだイベントの企画などは、強みをより強化していくことに繋がります。一方、プロフェッショナルな風土で実力や個人業績とそれに伴う報酬を強みとする企業であれば、昇給昇格の頻度を増やす、個人に応じたインセンティブ制度を充実させるなどによってさらに強みを伸ばしていくことができます。
 

ミクロな視点も大切に~従業員一人ひとりに向き合う~

 
 EVPはダイレクターや人事の方々が「マクロな視点」で活躍する社員のリテンションを考えていく上で役に立つアプローチです。
 
 一方で忘れてはならないのは「ミクロな視点」。私たちの目の前にいる社員は、Employee(従業員)という集合ではなく、一人の人間。大きな視点でEVPを意識しつつも、社員一人ひとりとの日々のコミュニケーションがとても大切です。社員が活躍しているときこそ、本人の社内での次のキャリアのこと、本人のことを評価していること、仕事だけでなく家族のことプライベートのことも気にかけていること、など十分な1on1の時間をとり、話す機会を増やしていくことが大事です。ダイレクターやマネジメントになるとどうしても日本本社や、他国拠点、顧客とのコミュニケーションに多くの時間が割かれがちですが、社内のメンバーとの時間も意識的に確保をしていきたいと、自分自身も自戒の念を込めて感じるところです。
 
参考文献:
JAC 2018年度調査資料『アジア人材戦略レポート
日系現地子会社におけるヒトと組織の課題』
 

著者プロフィール
 
JAC Recruitment Pte Ltd
松本 勇太(まつもと ゆうた)
Senior Manager

大阪大学(機械工学専攻)卒業後、人事系コンサルティングファームに入社。採用・組織開発コンサルティングに従事。その
後、外資系企業にて人事を経験。2015年に来星しJACリクルートメントへ入社。製造業専任のリクルートメントコンサルタ
ントとして活躍しながら、ディビジョンマネージャーとして部下の管理・指導も行う。シンガポール国立大MBA取得。

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