2013年1月1日
辞めた社員も会社の財産
Parco (Singapore) Pte Ltd マネージングダイレクター 日高州一 業種:ショッピングセンター
パルコは1991年にシンガポールに会社を設立し、1995年に、パルコ・ブギス・ジャンクションという名称でショッピングセンターを開業しました。ブギス・ジャンクションの株式をパートナー企業に売却した後、2006年にパルコの看板を降ろしました。その後、クラークキーのセントラルの開業コンサル、2010年にミレニア・ウォークでパルコ・マリーナベイの開業と20年近くシンガポールで事業を展開してきました。
パルコ・ブギス・ジャンクションの開業前から今日までパルコのシンガポールビジネスに関わってきた経験から、シンガポールのスタッフについて私の雑感ですが、以下にまとめてみました。
- シンガポールのスタッフは学ぶことがなくなれば辞めていく
業界の経験者から新卒までいろいろな経歴の方を採用してきましたが、学ぶことがなくなるとスタッフは辞めていく、というのが私の経験からの考察です。
ショッピングセンターの仕事というのは、1年のカレンダーがあり、同じことの繰り返しになる場合が多いものです。また、大きな改装業務も頻繁にあるわけではありません。
常にスタッフにチャレンジできる仕事を与えるというのが、上司としての務めかなと思っています。 - 居心地が良いと辞めないスタッフも
シンガポールの会社は組織が大きくないため、上のポジションになかなか空きがなく、自分が昇進できないと分かると優秀なスタッフは転職してしまう傾向にあり、社員に昇進の機会を与えて働き続けてもらうために役職を乱発することになっている会社も多いようです。かと思えば、逆に、居心地が良すぎて辞めないスタッフもおります。辞められるのも悩みであり、辞めていかないのもまた悩みになることもありました。 - 会社への忠誠心はないが苦労を共にした仲間意識は強い
皆さんも感じられていることでしょうが、会社への忠誠心は日本人ほどはないと思います。
日本人の会社に対する忠誠心が特殊ではあるようですが、仕事で苦労を共にしたシンガポールのスタッフの仲間意識は強いと思います。辞めていった昔のスタッフが一堂に会して食事をしたりなど、過去に一緒に仕事をしたメンバーで集まるような会が開かれることがよくあります。 - 辞めた社員も会社の財産
今回のタイトルにもしましたが、辞めた社員も会社の財産だと感じることがよくあります。どこの業界もそうだと思いますがショッピングセンター業界でも業界内の転職が頻繁です。他のショッピングセンターの人からパルコの出身者を採用したが優秀だと言われると、それも会社の財産かと思ってしまいます(財産を手放しているともいえますが……)。
また、以前の部下が各ショッピングセンターにちらばっており、ネットワークが自然に広がっていき、情報が入ってくるのも会社の財産になっているかと思っております。
シンガポールでの滞在年数は長いものの、人に関しては苦労の連続でなかなか的確なアドバイスなどは私からはできませんが、「社員はいつか辞めていくもの、ただ、繋がった絆はどこかで会社の財産、自分の宝になる」とポジティブ・シンキングを持つようにしております。
シンガポールは業界も国土も狭いため、辞めたスタッフにしても、仕事を断った取引先のスタッフにしても、相手が別の会社に就職して違った立場で、また一緒に仕事をすることがよくあります。私も経験がありますが、いやな別れ方をしたスタッフや取引先と仕事をするのは気まずいものです。そのような時にうまく仕事をするためにも、人間関係の良いネットワークは作っておくものだと思います。
日本と比べて契約社会であることには間違いはないですが、契約社会といっても杓子定規に物事を進めているわけではないのは皆さんも感じられていると思います。ビジネスをしているのは人間であり、シンガポールでは人と人とのつながりは外から見るよりずっと強固だと思います。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.226(2013年01月01日発行)」に掲載されたものです。