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社説「島伝い」

2019年11月25日

「日本」を売り込む相手の変化

 最近シンガポール在住の日本人が減っているように感じることがよくあります。日本へ帰国する方や近隣諸国へ異動する方が身の回りで相次いだからか、あるいは2015年頃からの労働力に占めるシンガポール人の割合を3分の2にしようという「シンガポール・コア」政策の影響をひしひしと感じる外国人経営者という立場にあるからかもしれません。ちなみに、11月に外務省が発表した海外在留邦人数調査統計によると、昨年10月の在星邦人数は3万6,624人で、前年比0.6%の微増でした。

 

 実際に在星邦人数の減少が起きているかは次回の統計発表で明らかになるでしょうが、減っても影響が少なそうなのが、本格的な和食店。かつては日本人客が大半を占めてましたが、近年はローカル客で賑わっています。また、今年は回転寿しチェーン大手のスシローがシンガポールに進出し、さっそくローカル客の人気を集めています。価格は2.20Sドル~と日本の「1皿100円」より一見高めですが、日本の店舗と同じ味を楽しめることから、その価値に見合った価格と受け止められたようです。従来のようにローカル客にあわせてアレンジするのではなく、「日本と変わらないおいしさ」を「適正な価格」で、というのが、どうやら今のシンガポール市場にマッチしているようです。

 

 その一つの要因として考えられるのが、2012年以降増え続けているシンガポールからの訪日観光客数。身近にも何度も日本を訪れているシンガポール人の方がいるのではないでしょうか。彼らからの質問も、例えば「あなたが地元でよく行くお店を教えて」といったものなど、以前とは明らかに内容が変わってきています。ネット上の口コミなどで店を探すのではなく、日本人が普段行くお店に行ってみたい、ということのようです。

 

 また、当社で毎年10月1日に開催している日本酒イベント「KANPAI」でも、当初は日本人の参加者が大半でしたが、ここ数回は半数以上がローカルの参加者。しかも、特定の蔵の銘柄について問い合わせがあったり、熱燗で飲んでみたいという要望が出たりします。実際に日本各地へ足を運び、そのおいしさや味わい方などを知っている人が増えているからでしょう。以前であれば日本人以外には興味を持ってもらえなかった品物でも、今後は販路を見い出せるものが出てくるかもしれません。

 

 21世紀に入って20年目という節目の年を迎えるにあたり、「日本」を売り込む相手でもあるシンガポール市場がどのように変化していくのか、自分達はどう対応していくのか、忙しい年の瀬にちょっと立ち止まって考えてみるのも面白そうです。 (千住)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.352(2019年12月1日発行)」に掲載されたものです。

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