シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP別の視点を取り入れる

社説「島伝い」

2019年4月24日

別の視点を取り入れる

 ある企業で、売掛金が未回収となっていた契約がいくつかあり、経営者が頭を悩ませていました。中には金額が少額訴訟の上限を少し上回っていたものもあり、弁護士に相談することにしました。しかし、契約内容などを精査してもらった結果、仮に裁判で勝って回収できたとしても、裁判にかかる時間や労力、裁判費用などを考慮すると、諦めるのが現実的だろう、というのが弁護士の見解でした。経営者は、法律の専門家が難しいという結論であれば、これ以上できることはないだろうと考えたものの、一方で会社として契約通りにサービスを提供したにも関わらず、対価を受け取れないまま終わってしまうことに納得が行かない、という気持ちも残っていました。

 

 売掛金の未回収は、金額が小さくても中小企業や零細企業にとってはやはり痛手です。帳簿上でその金額を見るだけで暗い気持ちになります。そんなネガティブな状態で仕事に向かうこともまた会社にとって大きなマイナスでしょう。

 

 しばらくしてその経営者に、たまたま債権回収の専門家と会う機会がありました。ことの顛末を話したところ、「やり方があるかもしれない」とのこと。後日改めて契約書を見てもらったところ、違うアプローチの提案があったそうです。それは、契約内容の一部は交渉を放棄する代わりに、残りの部分で支払いの交渉をするというもの。契約書に書かれた内容を分解して考えるという発想に驚いたものの、おかげで交渉の新たなアイディアまで浮かんだそうです。一度は完全に閉じられてしまったかに見えた扉を、再び開けることができるかもしれない、とポジティブに考えられるようになったとのことでした。

 

 このように、一つの分野から見ると解決困難な問題が、別の分野から違う見方をすることで新たな解決策が見つかるというケースは、実は多いのではないでしょうか。最終的な結論を出す前に、別の視点はないか、別の視点からであればどんな解決策が考えられるのか、一度は検討してみる価値がありそうです。

 

 さらに、ある時点では解決困難だったことが、時間が経つと状況が変わり、解決できることもあります。例えば、シンガポールの少額訴訟の上限は現在1万Sドル(当事者双方の合意がある場合は2万ドル)ですが、昨年7月に改正案が国会に提出され、今後2万ドル(同3万ドル)に引き上げられる予定で、よりスピーディな解決を図れるケースが増えると期待されています。こういった情報も含めて日頃から広く情報収集できる状況を作っておくことも、別の視点を取り入れるためには大事でしょう。

(千住)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.344(2019年4月1日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP別の視点を取り入れる