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社説「島伝い」

2018年10月29日

時間の経過の感じ方が違う理由

2018年も残すところ2ヵ月となりました。当欄で新年を迎えるにあたって……という話をしてからそれほど経っていないように錯覚してしまいますが、既に10ヵ月も前のことです。

 

子供の頃は、1日1日がもっと長く感じられたように思いますが、それを説明するのが、19世紀のフランスの哲学者ポール・ジャネーが提唱した「年を取るほど時間が経つのが早く感じられる」という説。5歳児にとっての1年間は人生の5分の1ですが、50歳の成人にとっての1年間は人生の50分の1であるため、同じ期間でも年齢に反比例してより短く感じるというもので、「ジャネーの法則」として知られています。

 

1日どころか1週間、1ヵ月という単位があっという間に過ぎるように感じる日々の中にいると「ジャネーの法則」に共感せずにはいられませんが、本当に時間は、子供にとっていつでもゆったりと流れていて、大人にとってはあっという間に過ぎてしまうものなのでしょうか。例えば、ゲームで遊ぶのは1日1時間までと決めている家庭で、約束の時間に声をかけたら「ええ、もう?」と子供が不満の声を上げる、ということは珍しくないでしょう。また大人でも、単純作業が続いて退屈している時などは休憩や作業終了までの時間が待ち遠しくなります。

 

それでも、年を重ねると時間の経過が早くなると思ってしまうのは、千葉大学文学部の一川誠教授によると「トキメキ」の頻度が関係しているとのこと。知らないことが多く、毎日が「トキメキ」の連続である子供の心は頻繁に動いている一方、経験から次に何が起きるか予測できてしまう大人の心はあまり動かず、一日一日の印象も薄いために時間の経過が早いと感じるようです。

 

大きな組織の中に属していると、日々の業務の中で繰り返し発生するルーティンワークも多く、慣れてしまうと昨日も今日も同じような一日になりがちです。しかし、海外勤務など慣れていた環境とは大きく異なる場所では初めて経験することも多く、毎日のように新鮮な発見があり、驚いたり、感動したりと心が動くことも増えます。そのようにして過ごした日々のことは、何年経っても記憶に残っているものです。

 

実際には、時間の経過は常に一定であることは言わずもがな。時間は誰にも平等に流れています。2018年はあっという間に過ぎてどんな年だったかも思い出せない、となるよりは、「こういう年だった」と自分の心に残るように、あと2ヵ月を日々新鮮な気持ちで、「トキメキ」に敏感でいられるように心がけることが、次の2019年へもつながるのではないでしょうか。 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.339(2018年11月1日発行)」に掲載されたものです。

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