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社説「島伝い」

2018年9月27日

シンガポールで日本酒を

10月は、日本各地で米の収穫期を迎え、日本酒の産地では新酒の仕込みが始まります。また、多くの酒蔵で10月1日を酒造りの元旦として祝っていたことから、昭和53年(1978年)に業界団体によって10月1日が「日本酒の日」と定められました。

 

そこで、日本と同様にここシンガポールでも「日本酒の日」にちなんで、より多くの人々に日本酒のおいしさや楽しみ方を体験して頂こうと2014年に始まったイベントが「KANPAI!」です。日本食や食文化を紹介する英語情報誌『OISHII』の主催で、毎年さまざまな種類・銘柄の日本酒を飲み比べたり、日本食以外のいろいろな料理と組み合わせてみたりと、日本酒好きにはもちろん、日本酒は初めてという方にも楽しんでいただいています。

 

日本酒を海外で楽しむ上でハードルとなってきたのが、劣化しやすいこと。20年ほど前のシンガポールでは、日本からの物流システムや輸送技術が現在とは大きく異なり、品質保持が難しかったためか、日本酒を飲んで体調が悪くなることも珍しくありませんでした。また、ローカルの人々の間では、口あたりが良いためについ飲み過ぎて前後不覚になってしまいがちなことから、日本酒は「こわいお酒」というイメージもあったようです。

 

日本では2000年代に焼酎ブームが起こり、日本酒の人気が下火になった時期がありました。人々の嗜好の変化に対応するため、日本酒でも味のやわらかさやフルーティさが追及されるようになり、さらにはスパークリング酒が登場するなど日本酒の多様化を図る蔵元が増えて、日本酒市場は大きく変化しました。

 

近年は世界各国で日本食ブームが起きたこともあり、日本酒を楽しむ現地の人々が増えているようです。また、日本を訪れる外国人観光客が過去5年ほどで急増していますが、旅先で初めて日本酒を試して、そのおいしさに魅了される人も多いとのこと。今年ナショナル・スタジアムで2日間にわたって開催された日本人会の夏祭りでは、日本酒の試飲ブースに長蛇の列ができていました。ローカルの人々の間で今や日本酒は「こわい」ではなく「おいしい」ものとして認識されていることを改めて感じました。

 

シンガポールでは、輸送コストや酒税の関係もあり、日本のような気軽さでお酒を楽しめる訳ではないのも事実。「日本酒は日本に行った時に楽しもう」という考え方もあるでしょう。しかし、日本酒ファンが増えれば、地元の消費者にとってより手が届きやすくなる方向へと市場が変化することも考えられます。10年後、20年後のシンガポールでは、今よりさらに多くの人が思い思いのスタイルで日本酒を楽しんでいるかもしれません。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.338(2018年10月1日発行)」に掲載されたものです。

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