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社説「島伝い」

2017年7月26日

手軽さと引き換えにしているもの

ハンバーガーやサンドイッチ、さらには日本のおにぎりなど手軽な“ファストフード”を提供する店がシンガポールで続々と増えています。世界的に有名なチェーン店だけでなく、旅行や出張で訪れた先にしかなかったような、特定の国や地域のチェーン店も最近よく見かけるようになりました。コンビニエンスストアでもファストフード食品の品揃えに力を入れている店が増えています。

 

手軽に食べられる食品が増えていることは、仕事の前や合間、あるいは移動しながらさっと食事を済ませたいというニーズの増大にもマッチしているようです。消費者にとって便利なことであり、助かると感じている人は多いでしょう。しかし、手軽に摂取できる食品は、少量でも脂質や糖分が多量に含まれているものが少なくありません。さらに、塩味や甘味がしっかり付いていておいしく感じるものが多く、つい食べ過ぎてしまいがちです。

 

多くの先進国と同様にシンガポールでも、国民のカロリー摂取量が増えて肥満率が上昇していることが問題になっており、地元メディアでもしばしば取り上げられています。1998年と2010年の調査を比較すると国民の1日の平均摂取カロリーが600キロカロリーほど増えていたとのこと。軽めの食事一食分に相当する量です。おいしいものを食べたい時にいくらでも食べられて、忙しくても簡単に食べられる食品が豊富にある、いわば“飽食”の環境が揃っている今のシンガポールでは、1日の推奨カロリー摂取量の範囲内に収めることの方が難しいかもしれません。

 

問題はカロリー摂取量だけではありません。本来であれば、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの各種栄養素を毎日の食事でバランスよく摂取すべきですが、手軽な食品ばかり日常的に食べていると、バランスを取るのが難しくなります。栄養バランスが良くない状況が長期間続けば、体に変調をきたし、病気にもつながりかねません。手軽な食べ物で食事の時間を短縮できることは一見効率的ですが、のちのち健康を害してしまえば、再び健康を取り戻すためにより多くの時間と費用を費やすという大きな回り道をすることになります。

 

時代と共に仕事や生活の環境が大きく変わっても、人の体のつくりまでが変わるわけではなく、必要とするカロリー量や栄養素はほぼ同じ。健康を維持するためには日頃からバランスの良い食事を適量とり、適度な運動を行い、睡眠を十分にとる、という基本に変わりはないはずです。手軽さと引き換えに何か損なっているものはないか、もし心当たりがあれば見直して、基本にできるだけ近づけられるような調整が必要でしょう。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.324(2017年8月1日発行)」に掲載されたものです。

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