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社説「島伝い」

2017年6月23日

「受難」だからできること

エンプロイメント・パス(EP)やSパスなどの就労ビザに関する話題は、従来その多くが役員以外の一般社員や職員についてのものでした。しかし就労ビザが必要なのは、外国人であれば現地の最高責任者や管理職でも同じ。そして最近、外国籍企業で本国から派遣予定だったジェネラルマネージャーやマネージングダイレクターなどのEP申請が通らない、というケースが増えているようです。この7月からはSパス枠の計算方法が変わり、ローカル・PR保有者の給与基準額が上がります。シンガポールでの就労ビザ取得は一層難しくなってきました。

 

また、今年1月からの新基準により最低給与額は従来の金額から大きく引き上げられ、新たに採用した人材と既存の社員やシンガポール国籍などの社員の待遇との格差ができてしまい、組織内で問題となるケースもあるようです。その不満が理由で優秀な社員が会社を去ることになってしまっては、会社にとっても大きな痛手です。

 

外国籍の人材が主戦力となってきた企業や組織にとっては受難の時期とも言えますが、この状況だからこそ、これまでなかなか手を付けられなかったことを抜本的に見直す良い機会なのかもしれません。それは組織の体制や、給与をはじめとした人事制度。変える必要性は認識しながらも、本業以外のさまざまな業務に時間を取られたまま何年も経ってしまった、という企業も少なくないでしょう。しかし、歪みを抱えたままで走り続けることは、やがて大きなリスクになり得ます。

 

日本企業の多くで年功序列制度はなくなりつつあるものの、完全に成果主義や職能資格制度に移行している訳ではなく、しかもその日本の人事制度がシンガポールの現地法人でもほぼそのまま適用されているケースは少なくないようです。例えば仕事で大きな成果を上げていても、遅刻が多いと勤務態度の悪さで人事評価が下がるのは、日本であれば当然と受け止められるでしょうが、成果主義が当たり前の環境で働いてきた人には説明なしには納得できない、といったもの。同様の問題は、外国籍社員が増えている日本国内でも起きているようです。

 

これからますますグローバル化が進んでいくとみられる中で、国籍や人種、年齢などに関わらず優秀な人材に活躍してもらい、企業として成長していくためには、どのような体制を作り、どのような人事制度にしていくべきか、今ここで時間を割いて検討し、変化につなげていくことができれば、企業にとっても将来にわたる大きな財産となるのではないでしょうか。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.323(2017年7月1日発行)」に掲載されたものです。

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