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社説「島伝い」

2017年5月29日

現状に即した対策へ

かつて携帯電話が一般に普及し始めた頃、携帯電話を片手にメールを読んだり、メッセージを打ちながら歩く人々が増え、社会的にも大きな問題となりました。近年スマートフォンの利用が急速に広がると、今度は「歩きスマホ」という言葉が一般的になるほどスマートフォンの画面を見ながら歩く人々が急増。メールやチャット、ソーシャルメディアでやり取りをしながら、あるいは地図アプリを見ながら、ゲームアプリの画面を操作しながらなど、スマートフォン上でできることが多種多様になって利用が深まった分、「歩きスマホ」が劇的に増えてしまったようです。英語のニュースなどでも”smartphone zombies”(スマホゾンビ)という表現がしばしば使われ、世界各地で問題になっています。

 

この「歩きスマホ」問題の対策としてシンガポールで先月試験的に始まったのが、道路に発光ダイオード(LED)の照明器具を埋め込み、歩行者用信号機と連動して点灯・点滅させるシステムの導入。同様の試みはオランダでも今年2月から行われているようですが、従来シンガポールでは、公序良俗に反する行為や危険行為に対し罰金を科すことで防止が図られることが多かったことを考えると、今回の対応はこれまでと少々傾向が異なるようです。

 

歩きスマホを禁じるのではなく、歩行者に足元でも信号を知らせるという対策は、もちろん歩きスマホを容認するという意味ではないでしょう。ただ、道路を渡る時でさえスマートフォンを見ながら移動する人々が実際に多いことから、より現状に即した対策を試みて、歩きスマホによる事故やけがを負うケースを減らす効果があるのか、見極めることが狙いであると考えられます。

 

シンガポールは世界的にもスマートフォンがいち早く普及し、その普及率の高さで知られています。さらに、小学校でもコンピュータ教育を導入し、子供達に幼い頃から情報機器を使いこなすことを奨励、企業に対しても生産性・技術革新控除(PIC)などの税制優遇策でコンピュータ機器の導入や利用を促してきました。スマートフォンの使用を制限する規制や法制度は、今のシンガポールにとってはあまり望ましくない選択肢と言えます。

 

今回の試験導入はオーチャードとブギスの2ヵ所で実施され、期間は6ヵ月。シンガポールの天候に対する耐性などを確認するとともに、一般市民からの意見を募るとのことです。どのような意見が寄せられるのか、このシステムがいずれは全島に導入されるのか、さらには他の国々での導入へとつながるのか、国内外で注目されることになりそうです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.322(2017年6月1日発行)」に掲載されたものです。

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