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社説「島伝い」

2007年9月3日

痛みを知らない子供達の行く末は?

自分に不利な展開になってしまったらリセットボタンをプチッと押す。気に入らないキャラクタは画面上から消す。ゲームで遊んだことがある人なら、ほとんど身に覚えがあるのではないだろうか。

 
もちろん、現実の世界にはリセットボタンは存在しないし、気に入らないなどという身勝手な理由で人を消すことは許されない。しかし、仮想世界のやり方を、現実でも適用してしまう人間が増えているとしたら――そんなことを考えさせられたのが、先月下旬に名古屋で起きた事件だった。

 
「金に困っている」という同じ問題を抱えた人間達が、ネット上の闇サイトで知り合い、互いに偽名のまま会って通りすがりの女性を襲撃することを画策、その犠牲になったのが、その日たまたま帰宅が遅くなって彼らの潜む車のそばを通りかかった女性だった。犯人達と女性はまったく面識も無く、彼女を襲ったのは「金を奪うのには力の弱い女性の方がいいと思った」からだという。そして「顔を見られたから」と彼女の命を奪った。

 
犯行の翌日に、犯人の1人が「死刑が怖い」という理由で警察に自首して事件が発覚した訳だが、この行動からも自分のことしか考えていない、浅はかな姿が浮かび上がる。3人はグループとも呼べない、ただ単にある一定の時間行動を共にしていただけの集まりに過ぎなかった。

 
こういう問題が起こるたびに、コンピュータゲームやインターネット上の仮想世界といったものが悪者視されるが、本当の問題は、利用する側の人間にある。保護と言う名の下に小さい頃から「危ないから」と様々な制約を受け、転んでヒザを擦りむく、友達や兄弟と取っ組み合いのケンカをして、叩かれたり、つねられたりしながら体で痛みを知る、といった機会が無いままに育ってしまったらどうなるだろうか。

 
子供のうちであれば、何か物にぶつかったり、ちょっと高いところから落ちてケガをしたとしても、軽症で済む場合が多い。大人になって取り返しのつかないケガをしないためにも、小さいケガを経験する機会を敢えて持たせ、ゲームのキャラクタと生身の人間の違いを子供たちが身を持って知ることも大事なのではないだろうか。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.105(2007年09月03日発行)」に掲載されたものです。

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