2008年5月19日
復活ののろしが向かう先
マレーシアの元首相兼財務相のアンワル・イブラヒム氏が10年ぶりに国会に登場したというニュースには、非常に驚かされました。アンワル氏は1980年代にマハティール政権下で頭角を現し、政策立案能力や行動力を買われて急進を遂げ、副首相兼財務相を務めていた1997年前半までマハティール氏の最有力後継候補と目されていました。
しかし、アジア通貨危機が発生した際、IMFが策定したマレーシア経済復興プランに賛同したアンワル氏と、国家発展のために「大規模な公共工事」実施を打ち出していたマハティール氏が真っ向から対立。1998年9月にマハティール氏はアンワル氏を副首相から罷免しました。数週間後にアンワル氏は10万人規模のデモで独裁政治の改革やマハティール退陣を要求する行進を展開して、国内治安維持法により逮捕状なしで身柄を拘束されました。その後の裁判で汚職罪を問われ、懲役6年の有罪判決が確定、更にその後同性愛の罪で懲役9年を言い渡され、事実上政界から追放されました。この事件には、アメリカをはじめ各国からマハティール体制への厳しい批判が集まりましたが、マハティール氏は内政干渉と一蹴。良くも悪くも国のトップとしてのマハティール氏の影響力の大きさを象徴した事件でもありました。
2003年10月にマハティール氏が首相を退陣、その約1年後、アンワル氏の同性愛の罪状が最高裁で覆され、前年に汚職罪の刑期を既に終えていた氏は釈放されました。マレーシアでは刑期終了後5年間政治活動が禁止されていますが、その期間が今年4月半ばに満了、氏の政界復帰が囁かれていました。
3月の総選挙では、与党連合からアンワル氏へのメディアを使った攻撃によって野党へ同情票が流れ、議席減の一因になったという見方もありました。選挙結果の責任を問われながらもアブドラ首相は続投することになりましたが、めまぐるしく動きがあるマレーシア政界で、アンワル氏の政界復帰への意思表示ともいえる国会登場のニュースが持つ意味は、やはり大きなものがあります。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.122(2008年05月19日発行)」に掲載されたものです。