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社説「島伝い」

2008年6月2日

中国への新たな緊急援助

中国・四川省で5月12日現地時間午後2時28分ごろに発生した大地震は、5月28日の時点で死者6万8,000人以上、負傷者約36万人、行方不明者約2万人、避難住民約1,500万人、被災者は累計4,500万人以上という、未曾有の大被害をもたらしました。被災地ではマグニチュード4以上の余震が続き、二次災害が懸念されるなど、まだまだ危険な状態が続いています。

 
残された多数の被災者への救援物資も不足する中、中国政府が北京の日本大使館へテントや毛布などの物資救援を打診、その輸送に自衛隊機使用の受入れを表明したというニュースが飛び込んできました。

 

 
胡錦濤国家主席が中国の国家元首として10年ぶりの来日を果たし、ここ最近日中関係に融和ムードが広がっていたとはいえ、2年前の反日デモにも見られるように反日感情の強い国民もまだまだ多い中国に、日本の自衛隊機乗入れが受入れられるとしたらもちろん初。政府も中国側からの打診内容を表明した時点では慎重な姿勢でしたが、事が事だけに、結局打診を受けてわずか1日というスピードで派遣の方針を固めました。

 

 
チベット問題で非難を浴び、北京五輪聖火リレーが世界各地で妨害されるなど、国際社会の風当たりが強い中で、日本との関係改善に力を入れ始めた中国政府のパフォーマンスという見方や、日本の首相官邸が日中関係改善をアピールする好材料として利用した、と見る向きもあるようですが、人道支援の観点から一刻も早くテントや毛布など救援物資を届けるため、機動力のある自衛隊の輸送機の使用は妥当な選択でしょう。

 

 
日本の国際緊急援助隊の活動に被災地からの感謝のコメントが報じられ、温家宝首相が日本の医療チームに直接謝意を表明するなど、これまでの反日感情むき出しな印象とは異なる動きがある今は、過去の遺恨を乗り越えて互いに助け合う真の隣人になる第一歩、と考えるのは性急過ぎるでしょうが、前向きな良い関係を築くきっかけに繋がればそれに越したことはありません。今回の任務を担う輸送機には、日本の代表として救援物資を堂々と届けて来てもらいたいものです。

 

 
追記(2008年6月2日):自衛隊輸送機での救援物資輸送は、5月30日に見送りが決定されました。上記は決定前に執筆されたものです。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.123(2008年06月02日発行)」に掲載されたものです。

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