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社説「島伝い」

2008年6月16日

悪いのは周りのヤツら

今月8日、東京・秋葉原で起きた無差別通り魔殺人事件。逮捕された容疑者は、静岡県で自動車工場に勤めていた25歳の男。日曜日の昼下がり、歩行者天国で賑わう中を2トントラックで突っ込んで歩行者をはねた後、車を降りてナイフで次々と歩行者を刺し、7人死亡、10人負傷。本当に許しがたい事件です。

 
今年に入って無差別殺人事件はこれで3件目。茨城県土浦市の8人殺傷事件の容疑者は24歳、JR岡山駅での突き落とし殺人事件の容疑者は18歳。容疑者が10代から20代の若者であること、対象は「誰でも良かった」と供述していることなど、どこか共通するものがあるのは、決して偶然ではないでしょう。

 
自分の置かれた状況に不満を持ったり、将来に不安を感じることは誰しもあること。しかし、その矛先を最初から周りの人間や環境に向ける傾向が最近見られるようです。親からも先生からも叱られず、社会に出てからも「今の若い人達は叱ると辞めちゃうから」と上司にも叱られないまま、いざ問題に直面すると、自分は悪くない、悪いのは周りだと考え、問題を解決するために自分でできることを探る前に逃げてしまう――。

 
20~30年前までは子どもが悪いことをすると、親や先生など周りの大人が叱り、時には叩いて叱りつけることが当たり前のことでした。叩かれた子どもの方も、ふくれっ面をしながら、なぜ叱られたのかを考え、心の中で反省していたものです。

 
いつの頃からか、叩いて叱ることは「体罰」とみなされ、大人が子どもを叱ること自体減ってしまいました。叱られなければ、自分の非に気付くことも、反省する機会も減ってしまいます。また、叱ることが怖いと感じる人も多いようです。「逆ギレ」というように、指摘を受け止めて反省するどころか、指摘された不愉快さをぶつけ返されたり、逆恨みされるケースがあるからです。

 
半年のうちに無差別殺人事件が3件も発生しているという事実の重さ。それは、コミュニケーション手段の多様化とともに他者との関わり方がどんどん希薄になっている現代社会へのサインであり、その社会にいる私たちひとりひとりに対する「立ち止まって考えよ」という赤信号ではないでしょうか。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.124(2008年06月16日発行)」に掲載されたものです。

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