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社説「島伝い」

2011年2月14日

アートへの門戸開放

旧正月明けにマーライオン・パーク近辺を訪れた方はお気づきでしょうが、これからしばらくは勢い良く水を吐き出すマーライオンの姿は見られなくなります。その詳細は5ページをご覧頂くとして、このマーライオンを、遥か遠く海の向こうに連れて行ってしまおうという計画が実は6年前にありました。

 
1895年から開催されている現代美術の国際展覧会ヴェネツィア・ビエンナーレに2005年に参加したシンガポール人アーティストのリム・ツァイチェン(Lim Tzay Chuen)氏は、現地に重さ70トンのマーライオン像を持ち込むことを提案、シンガポール政府観光局(STB)に許可を求めました。観光客にはおなじみのマーライオンですが、一般市民の関心をもっと呼び起こしたいというのが氏の意図でした。計画実行の際には、まず何も周知せずにマーライオンを撤去、そこへ学校のプログラムで子供たちを連れて行き、「マーライオンはどこへ行ってしまったのか?!」というストーリーを考えさせる、その後しばらく経ったら、遠く離れたイタリアでヴェネツィア・ビエンナーレにマーライオンが登場、というシナリオも考えていたそうです。

 
しかし、マーライオン像はシンガポールの象徴として国も非常に大事にしてきたもの。リム氏の案は実現しませんでした。

 
その翌年、第1回シンガポール・ビエンナーレが開催され、海外からも大勢の一流アーティストが参加し、多くの人が会場を訪れて作品を楽しみました。2008年に開催された第2回も含め、シンガポールの一般市民が現代アートに接する機会を増やすことに、シンガポール・ビエンナーレが大きく貢献しているのは間違いないでしょう。

 
シンガポールは、従来文化・芸術に関心が低いとされていました。今回、マーライオン像をホテルにする計画が許可されたことに多くの人が驚いたことと思いますが、これは、シンガポールでのアートに対する関心の高まりがもたらしたものであり、国としてもこの領域にこれから更に力を入れようとしていることや、その本気度が示されていると言えます。今後シンガポールのアートシーンで面白いことがどんどん起きるのではないかと非常に楽しみです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.183(2011年02月14日発行)」に掲載されたものです。

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