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社説「島伝い」

2015年6月15日

風の変化

昨年に負債を返済できず強制清算を請求された企業は246社と前年比24%増、実際に清算した企業は161社で同27%増であったことが最近報じられました。今年1月~3月でも強制清算請求は57件で前年同期比14%増、清算した企業は53社で同60%増。ちなみに、アジア通貨危機の影響が深刻だった1999年は、強制清算請求が455件、清算した企業は370社。この時に比べれば少ないとはいえ、経済の低調や、労働力のひっ迫、コスト上昇などで経営環境が厳しくなっていることが、これらの数値にも端的に表れているようです。

 

労働力ひっ迫の一因は、2011年以降シンガポール政府が打ち出してきた外国人労働者雇用の規制。従来は人手が足りない分野、特に飲食業や建設業などは外国人労働者の力に頼ってきました。しかし、ここ数年は生産性を向上して補う方向へのシフトが促され、そのための教育や設備投資に対する国の補助制度の拡充などが図られています。

 

専門職や管理職、上級職などを対象とした就労ビザであるエンプロイメントパス(EP)の発給基準も、ここ数年で段階的ながら急速に厳しくなりました。2014年1月からはEPの最低給与が月額3,300Sドルと、2011年6月末までの2,500Sドルと比較すると3割以上アップしました。昨年6月末までは、猶予期間として以前の基準での更新が最長1年まで認められていましたが、その形で昨年更新できたケースでも、今月末までには新基準に適合するように給与を見直してEPを更新するか、あるいは別の策を取るか、雇用主である企業もパスホルダーである外国人従業員も選択を迫られる形になりました。

 

規制の緩和を求める声は産業界からも上がっていますが、シンガポール政府は労働力における外国人頼みからの脱却を目指しており、規制を緩めない方針を明確に示しています。これは、シンガポールにとっても大きな転換期であり、その影響はこれからさらに広がると考えられます。風が変わっていることを、経営層だけでなく現場レベルでも意識することが求められそうです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.282(2015年06月15日発行)」に掲載されたものです。

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