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Vol.262

2014年8月4日

向浦 正さん

八 Hachi Restaurant・エグゼクティブシェフ。

asiax (16)料理人としての駆け出しは、京都・祇園での板前修業から始まった。京都で学んだのは懐石料理の技術や知識だけではなかった。茶道の作法、祇園祭になぜ鱧(ハモ)を食べるのか、部屋に生ける花は何か、初夏にホオズキ、秋にはハスの葉を器に盛り付けること……。

「四季の移ろいを愛でる心、自然や伝統や文化を重んじて表現していくこと。そういうことに感銘を受けました」。その後、料理の幅を広げようと、創作フレンチの店でも働いた。
そんな頃、世界に飛び出すきっかけになった出来事がある。昨年12月、和食がユネスコ(国連教育科学文化機関)の「無形文化遺産」に登録された。その背景にあったのは、2011年以降に本格化した、京の料理人たちによる働きかけだった。「和食を世界に発信しよう」と奮闘する先輩たちの姿を目の当たりにし、大いに影響されたのだという。「勢いで、行ってやろうと」シンガポール行きを決めた。「包丁と衣類、料理の本だけ」の荷物をまとめて、2012年末に渡星、レストラン「八」で腕を振るうことになった。
「八」は、懐石料理のおまかせコースのみを提供する店だ。食材は日本各地から、厳選された旬の野菜や魚を直送。食材に合わせて最も合う調理法をメニューが組み立てる。基本的な軸となるメニューはあるが、お客様によって料理や器など、全く同じということはないのだという。年齢や国籍、嗜好、お酒を飲むかどうか。カウンターに立ち、お客様の表情をよく見てコミュニケーションをしながら、その人に合わせたメニューや提供するペースに考えをめぐらせる。「大切なのは、いかにお客様が『良かった』と思ってくださるか。それを考えれば、同じメニューにならないのは必然です」。
四季のないシンガポールで、改めて日本が積み重ねてきた文化を感じるようになった。器の中に日本の花や葉などを取り入れ、目でも楽しんでもらえる美しい盛り付けを目指している。「何気ない精神のおもてなしも含めて大事にしたい。そのすべてが日本の文化だと思います」。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.262(2014年08月04日発行)」に掲載されたものです。

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