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法律相談

2011年6月20日

Q.シンガポールにおける担保法制は日本と比べてどのような違いや特徴がありますか?

シンガポールの担保法制 ―日本法との比較の視点から―(その2)

前回からの続き

 

(2)Charge

Chargeは、Mortgageと異なり、担保目的物の所有権は担保権者へ移転しません。Chargeは、無担保債権者に優先して、資産およびその対価を被担保債権の支払に充当する権利を担保権者に付与する合意に基づく担保権です。コモンローの下では、Chargeは、Mortgageほど広範でないとされてきましたが、実務上は、Chargeの設定契約において、コモンロー下での権利および契約的に手当された権利が全体としてMortgageの場合に類似した権利内容となるようにChargeの内容を規定することが通常であり、この点に関する両者の区別はそれほど重要ではないと言われています。ただし、Chargeは、日本にはない概念であるEquitable Security Interestに分類されおり、担保目的物に対して法的権利を取得した後続の第三者に劣後する可能性がある点で、Legal Mortgageとの違いは残っています。

 

また、実務上、Chargeは、Fixed ChargeとFloating Chargeの2種類が用いられます。Fixed Chargeは、特定の資産に対して設定され、設定者による当該資産の自由な処分はできなくなります。これに対して、Floating Chargeは、変動し得る不特定の資産に対して設定され、担保目的物の確定事由の発生により、Floating ChargeからFixed Chargeへと変わるまでの間は、担保権設定者は、通常の業務過程において当該資産を処分することができます。Floating Chargeは、担保権設定者の事業を麻痺させることなく債権者に対して担保を提供する手段として有効ですが、Fixed Chargeに比べて、債権者の保護で劣る面があります。例えば、Floating Chargeでは、上記のように自由処分が認められているため、担保目的物に対して、Floating Chargeの担保権者よりも優先順位を有する権利を第三者が取得するかもしれません。また、Floating Chargeは、シンガポールの会社法下では、労働者の給与などの優先債権に劣後すると規定されています。

 

Chargeは、不動産に対しても設定することが可能ですが、実務上はまれだと言われています。Chargeは、動産や債権に対しても設定することができます。

 

(3)Pledge

Pledgeは、担保権設定者が担保目的物の占有を担保権者へ移すことによって設定されます。担保目的物の所有権は担保権設定者に残ったままですが、担保権者は占有者として一定の法的な権利を得ることになります。Pledgeを有する担保権者は、被担保債権が完済されるまで担保目的物を占有し続けることができますし、また、一般には、債務が支払われなかった場合に、担保目的物を処分して、その対価を被担保債権の弁済に当てることもできるとされています。

Pledgeの基本的な概念は、日本における質権の概念によく類似しているように思われます。

 

(4)Lien

Lienは、被担保債権が完済されるまで担保目的物を留置する権利を授けるものです。Lienの場合は、Pledgeとは異なり、法律または契約書において別途定めがある場合を除き、担保目的物を処分して、その対価を非担保債権の弁済に当てることはできません。また、Pledgeでは、担保設定目的で対象物の占有が移転されるのに対して、Lienの場合には、保護預かりや修理といった別の目的で占有の移転が行われるという違いもあります。

 

このように、Lienは、日本における留置権や先取特権に類似した性質を持っています。

取材協力=Kelvin Chia Partnership 大矢 和秀

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.191(2011年06月20日発行)」に掲載されたものです。

本記事は、一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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