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インドビジネス基礎情報

2006年7月3日

コンピュータ工学発展の原点? インダス文明(歴史1)

このシリーズも、今回から詳細な内容に入っていきます。インドといってもさまざまな側面があります。インドを知り、インド人を理解する手助けとなるよう、今回から歴史、経済・産業、IT、政治・国際関係、社会・文化、そして宗教などについて、同時に交互に進めていきたいと思っています。

 
今回はインドの歴史の1回目で、インド史の最初としてインダス文明について取り上げます。

 
インド亜大陸では起源前7000年頃インダス平原の西方で、南アジア最初の農耕村落が生まれ、羊・山羊・牛を飼い、麦作農耕を行なっていました。
インダス文明は、メソポタミア文明よりほぼ500年遅れて、紀元前2600年から紀元前1800年の間、インドおよびパキスタンのインダス川周辺に栄えた文明です。このインダス文明の遺跡から、現在のインドに通じるいくつかの兆候がすでに見られます。

 
インダス文明は、現在南インドを中心に暮らしているドラヴィダ人によりつくられたと推定されています。ドラヴィダ人はインダス文明を作ったように、勤勉で、先進的で、分権意識を強く持っています。

 
ドラヴィダ人は後に北西から侵入してきたアーリア人に追いやられ、その後現在まで南インドの方へ移り住んでいます。その影響として、南インドがインド北部に比べて貧富の差が少なく、識字率は全国平均65%に対して南インドのケララ州では91%、タミル・ナドゥ州が74%と高いという、その勤勉な特徴が見られます。

 
インダス文明では、モヘンジョ=ダロ(パキスタン南部、シンド地方)やハラッパー(パンジャブ地方)など、メソポタミア文明と同じく多くの都市国家が栄えていました。
この整然とした計画都市において、モエンジョダロ遺跡などでは豊作と再生を祈念する沐浴場としての「大浴場」がみられ、またここで発掘された印章に、ヒンドゥー教の最高神シヴァ神の原型と思われる彫刻が存在します。

 
つまりこの文明の時代に、後のヒンドゥー教の再生の象徴であるリンガ(男性器)崇拝、牡牛の崇拝、宗教的沐浴の風習、樹木信仰の原型が形作られました。
インダス文明では、巨大な権力が存在した跡は見あたらず、各家々に井戸があり、浴室があり、排水設備も整備されているように、貧富の差が極めて小さいことがうかがわれます。これは現代インドの民主主義意識や、南インドにおいて貧富の差が比較的少ないことともつながってきます。

 
またこの地を統制した国家権力の跡に加えて、軍事力を裏づける武器や武具もほとんど発見されてないことは、インダス文明が、平知で安定した市民文明であったこともうかがわれます。この点で、インドでは街でけんかをしている光景はあまりみられず、好戦的な民族性でないという点で現代とも共通性が感じられます。

 
インダス文明時代では商業活動も盛んで、メソポタミアとも交易が行われていました。このときからすでにインドは、現代まで通じる中国や中東を結びつける、交易の要所という地理的な役割を果たしていたのです。現在でもこの交易の要所という位置づけは、インドをより魅力的にしています。

 
また商業活動において、現代のコンピュータに通じる2進数が用いられていたと思わせる、石製、銅製の各種の分銅や秤などの遺物が見つかっています。モヘンジョダロの遺跡から出てきた分銅のセットを軽い方から重い方へ並べて順番に秤量してゆくと、重さが2倍ずつになっています。これが十進数であれば、分銅の重さは10倍ずつになるものです。

 
このことは現在のインドが、コンピュータ工学やソフトウェアの分野で成功していることと無関係でないと思わされます。また現在IT産業の分野で、バンガロール、ハイデラバード、チェンナイ等、ハイテク都市の多くを南インドが占めていることとも、歴史的必然かもしれません。

 
このようにインダス文明と現代インドの共通性も見てとることができますが、この後歴史をさかのぼってくると、さらに現代インドがわかってくると思います。今後も楽しみにしてください。
その前に次回は経済で、インドのマクロ経済について現状をまとめておきます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.077(2006年07月03日発行)」に掲載されたものです。

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