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2006年9月4日

インド政治の基本(政治・国際関係1)

今回はインドの政治です。インドの政治の最大の特徴は、独立以来ほぼ一貫して議会制民主主義を貫いてきたことである。この点がインドの将来性をバックで支え、カントリーリスクを下げる大きな要因となっています。

 

インドの政治を考える場合、本シリーズ第4回で示したようにインドが多宗教、多言語を抱える多様性の国であるということで、対内的には国民の統合の維持、対外的には独立の堅持が基本で、そのために開発による経済的発展とその分配を必要としてきました。従って、独立以来のインドにおける政治・国家運営のベースは、

  1. 独立の堅持
  2. 国内全土の統合
  3. 開発による経済発展

の3点です。

 

このうち国内全土の統合という点では、広い国土をまとめるためにも、総人口の8割を占めるヒンドゥー教を国家の理念とはしないという、インド憲法にも定めた政教分離主義があげられます。

 
しかし80年代末から、ヒンドゥー・ナショナリズムを掲げるBJPが勢力を伸ばし、インド国内のイスラム教徒を刺激し、ムスリム多住地域であるジャム・カシミール州の独立運動をおこす契機ともなっています。

 

 

また開発による経済の発展という点では、独立後のインドの政治を主導してきた会議派をはじめとする多くの政党が、経済的不平等の是正を主とした「社会主義」を公約に掲げたことをおさえなくてはいけません。これは過小な経済のパイを適正に配分しないと、個人間や地域間の経済格差の拡大が、国民の中の諸集団の不満を増大させ、これが国家の統一した存立を危うくすることになりかねないからです。そのために開発の促進による経済振興は政治課題としても最優先課題でした。

 

 

このような社会主義的政策の実質は、閉鎖的な経済運営を行い、インド国内産業の保護・育成にありました。つまり経済における社会主義政策とは、欧米資本によらないインド国内優先の閉鎖経済のことであり、もうひとつの基本課題である独立の堅持と密接に関連しあうものでした。

 

 

しかし規制的、閉鎖的な経済運営は、1965年の第二次印パ戦争や干ばつの影響もあり、経済の発展を阻害することとなりました。社会主義的な計画経済政策の元では、経済政策を立案する政府の重要性が増すこととなりました。これが他の社会主義国と同様、産業の国有化や政府による許認可による規制強化がなされることにつながりました。さらに、官僚の権限増大は政官財の癒着をもたらし、官僚の非効率さが産業の発展や自由化を阻害する要因となっていました。この官僚の非効率さは、経済自由化され、経済発展を実現した今日でも、自由化に対するブレーキとしてまだまだ機能しています。

 

 

加えて外交面で、インドはアメリカのベトナム戦争批判を展開しました。これによりアメリカの対印経済援助は停止され、それがソ連への傾斜をさらに強めることとなり、結果的に経済の停滞が進んでしまいました。反米・親ソの外交路線は、その後80年代まで続くこととなりました。

 

 

経済の停滞はやがて1991年の債務不履行寸前の状態にまで至ることとなり、これがラオ政権による「新経済政策」、すなわちドラスティックな経済自由化政策へとつながることとなりました。この頃中国は改革開放政策により目覚しい経済成長が始まっており、ソ連・東欧では共産主義政権が崩壊した時期で、インドも社会主義を続ける状況でもなくなっていました。

 

 

インドの国家的課題である、独立の堅持、国民統合の達成、および開発の促進は、この経済自由化により新たな局面を迎えることとなりました。この経済自由化により経済発展が進んだことで、インドを独立以来苦悩してきた国内の安定・統合も進んできました。グローバル化の恩恵を最も受けて発展してきたインドにとって、今後この自由化路線が進んでいくことはあっても、後退することはもはやありません。

 

 

次回はインドの社会・文化の第一回目で、まずはインドの政治について風土やその全体像からはじめていきます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.081(2006年09月04日発行)」に掲載されたものです。

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