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2007年3月14日

インドの教育事情 (社会・文化3)

今回はインドの社会・文化の第3回目で、インドの教育事情について記します。
IT産業が急速に発展するインドですが、その最大の要因は優秀な人材が豊富にいることです。

 
インド人が優秀だと言われる背景には、伝統的に数学に強いということがあげられます。「ゼロ」を発見したという話は有名ですが、「十進法」や「桁の概念」を考えたのもインド人でした。インドで哲学や宗教が発展したように、インド人は論理的な思考を得意とし、数学教育も日本のように計算法を教えることが主体でなく、証明問題を中心に論理的思考力を教育する点に中心がおかれています。

 
またインドではヒンドゥー教をベースに頭脳労働が尊いとされており、初等教育よりも高等教育に重点がおかれていることも特徴です。

 
インドの憲法では15歳までが義務教育と定められており、すべての国民が等しく教育を受けることができるとされています。
インドの教育制度は幼稚園の年少組、年長組の後、小学校が1年から5年(6-11歳)まで、中学校が6年から10年(11-15歳)、そして中学上級が11年、12年生(16,17歳)です。その後は大学で、医学が5年、芸術が3年、それ以外は4年です。そして大学院が1.5年から3年と続きます。義務教育は小中学校です。

 
インド国内には小学校が68万校、中学校が11万校あり、高等教育機関として国立・州立大学が272校と、学部中心のカレッジが1.1万校あります。今後もIT系を中心に人材不足が予想されていることもあり、政府はさらに増やしていくことにしています。また、カレッジのうち1/4は理工系や医学系など理工系専門教育に特化した学校です。

 
このうち、インド工科大学(IIT、Indian Institute of Technology)やインド科学大学院大学(IISc、Indian Institute of Science)など、世界のトップクラスの大学や大学院があります。IITなどは、ここに落ちた学生で、米国のマサチューセッツ工科大学に入るとまで言われているほどです。IITの授業料は年800ドル以下で、入学試験の合格率はわずか2%の狭き門です。その上のIIScはインド最難関校と言われており、ここの卒業生にはサン・マイクロシステムズの共同創業者のコースラ氏、インフォシスの共同創業者であるムルティ氏、ボーダフォンCEOのサリン氏などがいます。

 
また工学系以外のトップスクールとしては、法律はバンガロールのNLSIU、医学はデリーのAIIMS、経営学はハイデラバードのISBと全国6都市にあるIIMです。
一方、インドの初等教育はまだ遅れており、貧しい地方の農村部では、初等教育すらまともに受けることのできない人が今でも多くおり、入学した子供でも半数は卒業前に中途退学すると言われています。また農村部では特に女子に対して教育の必要を感じてない親も多く、女子の就学率、進学率の向上が課題となっています。

 
他方初等教育でも公立校以外に私立校があり、これら名門の教育機関には金銭的な余裕のある富裕層の子供が集まり、優れた教育がなされています。
今年2月末に発表されたインドの07年度教育関連予算は、前年度比34.2%増の約3,235億ルピーが割り当てられ、特に中等教育での中退者を減らすための奨学金制度の導入や、教員20万人の増員、教室50万室の増設などが盛り込まれ、政府も力を入れてきています。
この他にインドに特有なものとして、指定カーストを対象にした優先入学枠や授業料の補助金といった制度もあります。しかし昨年には医科大学でこの優先入学枠の27%への拡大に対して、逆差別だとして大きな反対運動もおきました。

 
インドの識字率は向上してきてはいますが、01年で65.4%にとどまり、中国の90.3%に比べてもかなり低い水準にとどまっています。加えて男女間の差もあり、女子の識字率はまだ54%と男子の76%に対して低いことは大きな問題です。また地域差も大きく、最も識字率の高いのは南部ケララ州の91%で、最も低いのは北部ビハール州の48%です。
一方都市中間層は教育熱心で、例えばインドにも日本の公文が進出しており、人気を博しています。ニューデリーにある公文塾では、算数と英語の2教科を教え、1教科週2回の月謝が900ルピー(約2,500円)と、インドの物価水準では高いのですが、「お受験」準備の幼児から中学生までが通っています。
次回はインド史の4回目、マウリヤ朝以降の古代インド統一国家についてです。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.094(2007年03月14日発行)」に掲載されたものです。

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