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インドビジネス基礎情報

2008年1月1日

インドビジネス07年回顧と08年の展望

今回は新年号にあたり、07年の回顧と08年の展望を各々10のトピックスにまとめてみました。

2007年の回顧

  1. 高成長続くインド経済07年のインド経済は03年からの高成長が持続し、好調を維持しました。07年の経済成長率は9%成長と予測されています。株式市場は、07年はSENSEX指数が1月3日に1万4000台をつけて始まりました。その後もルピー高や金融引き締め策、さらにサブプライムローン問題などの影響を受けた下げもありましたが、12月14日時点で2万0088と年初から43%も上昇しています。ルピーの対ドル相場も年初1ドル44ルピーでしたが、7月以降は39ルピー台と急激なルピー高で推移しました。
  2. 大型受注続き、好調維持するインドIT業界インドの高成長を引っ張るITソフトウェア業界は、07年も好調を維持しました。07年度のインドのITソフトウェア・サービス輸出は30%近い順調な成長を遂げ、年間輸出額が400億ドルに達する見通しです。インドIT業界の雇用は600万人に達していますが、今なお人材不足の状況です。
  3. 自動車工場進出ラッシュ乗用車販売台数は、07年も2桁の伸びを示しています。07年は日産自動車のインド進出のニュースで始まり、ダイムラーによるメルセデス工場の建設、ホンダの工場新設、スズキは工場の増強発表、ボルボの合弁生産、トヨタ新工場建設発表、BMWはチェンナイ工場開所などのニュースが相次ぎました。この他に07年は低価格車競争が起き、タタによる2500ドル車計画に続き、日産は3,000ドル車を、韓国の現代自動車も300万ウォン(3,300ドル)の超低価格車をインドで開発する計画を発表しました。
  4. 契約者数が爆発的に増加している携帯電話07年7~9月期は携帯電話販売台数でインドが世界一となりました。07年8月には新規加入者数は800万人に達し、携帯電話利用者の総数は2億人を突破しています。この状況でノキアはチェンナイ工場増強、サムスン電子はチェンナイに新工場建設、そしてソニーエリクソンはR&Dセンター建設などの計画を進めています。英ボーダフォンは、インド第4位のキャリアであるハチソンエッサールを買収しました。
  5. 外資の攻勢が始まった小売業界07年は中間所得層の増加に加えて、消費者信頼感指数で世界最高点を得るなど消費者心理が好調で、大規模ショッピングセンターが続々と開店しています。この状況で外資は、開放を待たずインド進出を始めました。ウォルマートはインド・バーティ社と組んで卸売りで参入し、小売り店舗は100%バーティ資本としました。小売り世界2位の仏カルフールも全額出資で卸売りに参入し、小売りはフランチャイズチェーン方式で参入としました。
  6. 日本ではインドブーム国際協力銀行の調査で、今後10年を見通した有望な販売・投資先としてインドが中国を抜き初めて首位になるなど、日本企業の進出が増加。政界からも安倍首相、福田首相をはじめ閣僚が続々と訪印し、インド重視の方針を明らかにしました。日航や全日空はインド便を増便、IT各社もインドの拠点を次々と拡充させています。また07年は日印交流年で、各地でイベントが催されました。NHKをはじめインド特集番組が増え、インド式計算がブームとなるなど、インドの数学教育なども注目を浴びました。
  7. 安定だった政治状況左翼勢力と連立した会議派政権は、何とか結束をくずすことなく安定を保った1年でした。インド最大の州のウッタルプラデシュ州で州議会選挙では、最下層カーストを支持基盤とする野党大衆社会党が勝利し、国政与党第一党の国民会議派は微減で踏みとどまりました。大統領選挙では、インド独立後初めて女性が大統領に選出されました。米国と最終合意した原子力協定は、野党や左翼政党の反対でシン政権は一時苦境に陥りましたが、インド側に有利な内容となり、協定発効に道筋が見えてきています。
  8. 世界で存在感を増すインドの外交印パ関係には特に悪化は見られませんでした。ミャンマー危機では、対中牽制などの必要性から軍政との関係強化に努めています。米国とは良好な関係を維持し、ロシアとの関係強化や、ブラジル、南アフリカとの連携が進みました。また南アジア地域協力連合を通じて、地域の盟主としての地歩を固めています。
  9. 活発化するインドの対外投資と外国企業によるインド投資魅力ある投資先としてインドを挙げる経営者が急増し、製鉄では世界最大のミタル、タタスチール、韓国ポスコや中国の中鋼集団も製鉄所建設を進めています。タタスチールは英コーラスを買収し、世界第5位となりました。その他IBMやアクセンチュアなどIT企業、さらにシーメンスなど多国籍企業は続々とインドへの投資拡大を発表しています。一方インド企業による外国企業の大型買収も相次ぎ、05年にはわずか43億ドルだった海外投資が07年は350億ドルを超え、インド企業の買収額は外国企業によるインド企業の買収額を逆転すると見られています。
  10. 断続的に発生するテロ今年もインド国内では、テロが散発しました。アッサム統一解放戦線によるアッサム州での爆破テロ、イスラム過激派は、北部ハリヤナ州、パンジャブ州、ウッタルプラデシュ州、そして南部ハイデラバードで爆弾テロを行いました。共産党毛沢東主義派反政府勢力は、東部チャッティスガル州やジャルカンド州で襲撃事件をおこしています。

2008年の展望

  1. 経済は引き続き好調、ルピー高には注意インドの企業経営者の8割が今後の景気が現状より良くなると予想しており、ルピー高や原油高騰の影響はあるものの2008年のインドの経済成長率は8%台の成長が続くと予想されています。
  2. インフラ整備はこれからが本番インドの持続的な成長のため、インフラ整備投資はこれからが本番です。都市交通整備、空港・港湾整備、道路網整備、発電所建設等の計画が目白押しです。中でも費用の2/3を借款として日本政府が提供するデリー~ムンバイ間の高速貨物専用鉄道建設に、日本企業は期待を寄せています。
  3. 製造業の振興インドは貧困対策も含めて雇用吸収力の大きな製造業振興に力を入れており、サービス業偏重の産業構造の改革が一層進む見込みです。
  4. 農村振興・農業再構築が次の課題例えば携帯電話の新規加入はこれまでは都市部が中心でしたが、今後は人口の7割を占める巨大な農村部をどう攻略するかが勝負となってきています。
  5. 富裕層市場の拡大昨年はメルセデスベンツやBMWといった高級車が売れ始めるなど、富裕層に向けた市場もいよいよ離陸期に入ってきたようです。現在インドの高級車市場は年間5,000台弱程度の規模ですが、2010年までには1万台規模になると見込まれています。タタモーターが英高級車ブランドのランド・ローバーとジャガーの買収に向けて積極的に動いているのも、この市場をにらんだものとみられています。
  6. 教育への重点投資大量の人材を輩出するインドですが、それでも急拡大する需要をまかなえず人材不足の状況が続いています。そのためインド政府は、予算の教育への重点配分を続けると明言しています。加えて製造業強化ともからみ、これまでの高等教育偏重から、初等教育にも力を入れていくことにしています。
  7. 日本企業の買収本格化日本での三角合併の承認や、日本人スタッフや顧客が獲得できることから、ITや医薬などで日本企業を対象とした買収も増加すると思われます。
  8. FTAの推進日本もインドとのFTAについて検討を始めていますが、豪州、EU諸国、ベトナムなどもインドとのFTA締結に向けて研究や交渉を進めています。
  9. 環境問題での協力促進ポスト京都の枠組みにインドを入れたい日本と、日本の省エネ技術が欲しいインドとの間で利害が一致し、環境対応での協力促進が進むとみられます。
  10. 宇宙開発で頭角07年、インドは人工衛星の打上げに成功し、衛星打上げビジネスでもイタリアの天文衛星打上げに成功しました。08年には無人月探査衛星の打上げも計画されており、宇宙開発でインドの存在感が増大するでしょう。

07年は全米初のインド系知事がルイジアナ州で誕生しましたし、米シティ・グループの新CEOもインド生まれのパンディット氏となりました。グローバル化の進行で、インドの存在感は08年も一層大きなものとなっていくと思われます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.113(2008年01月01日発行)」に掲載されたものです。

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