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インドビジネス基礎情報

2008年5月19日

インドIT業界の構造・特徴と最近の傾向(IT8)

今回はITの8回目で、インドIT業界の構造と特徴についてさらに述べ、そして最近の傾向についても示すこととします。

 
インドIT企業の特徴は、前回挙げたものに加えて、何といっても総合力にあり、当初のプログラミングやテストといった下流中心から、次第に設計など上流工程や、コンサルティング、研究開発といった高付加価値領域にまで広がっていきました。現在では、IT業務の一括管理といった広範囲の業務も受けるようになってきています。人材の供給力を武器に、巨大なシステムの管理や開発の業務がインドIT大手に集まったことで、その会社にプロジェクトマネジメントの経験やノウハウが蓄積されることとなり、さらに力がついていくという好循環になっています。

 
次に、ソフトウェア・プロセスの品質管理が世界最高水準にあることがあげられます。ソフトウェアの品質水準を示すソフトウェア能力成熟度モデルCMMがありますが、2005年時点ではCMMの最高位であるレベル5の認証を受けた事業所は世界の3/4がインドで75事業所もあります。

 
ITアウトソーシングは当初は単にコスト削減目的であったものが、現在では品質の確保や企業収益拡大のツールととらえられています。そしてインドIT業界は、世界での経験を基に、品質管理力とプロジェクト実行力、及び大規模な業務をこなしていける人材の層の厚さを武器にしているのです。

 
日本企業の委託先は、インドよりも中国が中心ですが、このように大規模開発のマネジメント、高度な専門技術、グローバル市場を目指した製品の開発という点では、中国はインドに遠く及びません。インドIT大手は、日本企業とはパートナーとしての関係を求めており、「協力はするが、下請けにはならない」というのがインド大手企業の方針です。この点で下請けを求める日本企業のオフショア委託先では、中国の方が好まれているのが現状でしょう。インドに下請け的業務を委託したい場合は、大手でないところから探すことになるでしょう。ただその場合は、日本語力には大きな期待ができないという問題があり、日本側に優秀なブリッジSEが必要となります。

 
ただ「日本国内向け」のソフトウェア開発技術者の育成なら、コストは別にしても日本でもできます。しかし新しい観点で技術者を育成する、世界で売るソフトウェア商品を開発するといったブレークスルーを図るための協業相手としては、インドは絶好の地なのです。

 
次にインド・オフショア受託の最近の傾向について示します。インド・ソフトウェア業協会NASSCOMの会長は最近のインドIT企業の業績好調の原因を、「競争力の強化に加えて、ITインフラのリモート管理といった新たなサービスの提供に積極的に取り組んだことが要因となった」と述べました。

 
現在のインド企業にとって、主戦場はもっと高度な領域に移りつつあります。すなわち、IBMのような欧米企業が長く独占してきたビジネスコンサルティング分野などの高付加価値・上流工程への進出を急いでおり、技術革新や、グローバル展開を徹底的に推進することも課題となっています。

 
コンサルティングサービスの提供では、欧米の多国籍企業はすでに数十年の実績があり、調査研究や開発に対してやはり何十年にもわたって資金を投じてきています。 そのためインド企業は利益率25%への固執を捨て、高い利益率をある程度犠牲にしても、未来のための投資を行っていくことが求められており、実際に行っています。 タタ・コンサルタンシー・サービシズTCSの幹部は、「我々はIBMやアクセンチュアに並んだ。我々は顧客のパートナーであり、コンサルタントであり、もはや単なるベンダーではない。技術革新への投資も増やしている」と語っています。この言葉が示すように、TCSの2007年度第2四半期決算で、初めてソフトウェア・アプリケーション開発・管理が売上げの半分以下となり、コンサルティング、BPOやインフラ・サービスが売上げの50%を超えました。インフラ管理は3年前にはじめた事業で、TCSが企業などに対して遠隔でそこのコンピュータ・インフラの管理を行うものです。TCSのチャンドラセカランCOOは、このことを「画期的な四半期となった」と語りました。

 
次回は宗教の8回目で、ヒンドゥーの空間論、時間論について述べていきます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.122(2008年05月19日発行)」に掲載されたものです

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