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インドビジネス基礎情報

2008年8月4日

インドの製薬業界(経済9)

今回は製薬業界についてです。経済の回は今回の製薬で終了となります。
インドでIT産業とともに特に注目されている産業が、製薬・バイオ関連産業です。医薬品はインドの主力輸出商品となっています。
インドはこの分野でも豊富な人材を有しており、外資系企業からも医薬品の生産、研究開発拠点として注目されています。

 

 

インドの製薬業界の強みは、ジェネリック(後発)医薬品にあります。ジェネリック医薬品は、すでに市販されている医薬品と同じ成分の製品を、特許が切れた後に、別の製薬会社が生産・販売する医薬品のことで、多額の開発コストが不要なため、オリジナルに比べてはるかに安く販売できるというメリットがあるものです。インドは1970年の特許法改正以降昨年までの間、医薬品分野では製法特許のみが与えられていました。そのおかげでインドの製薬会社は、先進国のジェネリックメーカーよりも早く合法的に新薬を模倣する事ができ、国内向けに大量生産することで、その学習効果を通じてコスト削減が行なわれてきたことが、インド製薬会社の強みとなっています。

 
しかしインドは2005年から、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」に則り、それまで医薬品に適用していた「製法特許」から「物質特許」を導入するなど、法整備もなされ、知的財産権の保護が強化されてきています。それにより、国際的製薬企業もインドでの事業強化を図っています。

 
インド国内の製薬企業数は世界一で、世界の医薬品生産において、数量ベースで世界第4位、金額ベースでは第13位です。この市場は、経済全体の成長にも伴い、毎年約10%もの成長を続けています。

 
2007年におけるインドの製薬会社の売上げ上位は、シプラとランバクシーが144億ルピー(約360億円)でトップ、それに外資系のグラクソ・スミスクラインが143億ルピー(約357億円)で続いています。

 

インド企業は今、欧米でのジェネリック薬の開発、販売のビジネスに力を入れており、欧米や日本で製薬会社の買収も積極的に進めています。

 
日本では現在、医療費の抑制政策がすすめられています。そのため政府も医療費削減の一環として、ジェネリック医薬品の安価な供給を促進する政策をとっています。しかしながら日本のジェネリック医薬品の占める割合はまだ低い水準にあり、インドの医薬品企業も日本での拡販を目指しています。

 
インドの製薬業界関連では、今年6月に大きなニュースがありました。第一三共によるインドの製薬会社「ランバクシー・ラボラトリーズ」の買収です。ランバクシーは1961年設立で、従業員は約1万2000人(うち研究者1400人)、07年12月期の売上高は743億ルピー(約1,860億円)の大企業です。ランバクシーは、高コレステロール血症や感染症などの領域における後発医薬品を主に製造しており、製剤工場をインド国内に6拠点、海外に13拠点持っています。

 
今回の買収で、第一三共は以下の4つの効果を期待しています。第一に、新薬に加え、ランバクシーが得意とする後発薬への参入による売上高の増大と今後の成長機会の確保です。第二には、新興市場への足がかりの獲得です。今回の買収により、第一三共の拠点は現在の21カ国から56カ国に拡大し、インドをはじめアジアや東欧、アフリカの後発薬市場に参入することになります。第三に、規模拡大による研究・開発・生産から営業までの効率化によるコスト競争力の向上です。第四に、ランバクシーとの相乗効果による研究開発力の強化です。

 
医薬品業界も他と同様グローバル化が進んでおり、インド企業がその中心的な位置を占めています。2000年以降、インドの大手製薬企業は積極的に海外で拠点づくりを強化してきており、日本市場にも本格的に進出し始めています。07年年4月にはインド製薬大手のザイダスグループが、日本ユニバーサル薬品を買収しており、同年10月にはインド製薬6位のルピンが、中堅後発薬メーカーの共和薬品工業を買収するなどしています。

 

 

製薬業界もグローバルな競争が進展する中にあって、インドはその主要なプレーヤーとしてその存在感を一層高めていくでしょう。
次回はITの9回目で、インドIT業界の課題について示します。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.127(2008年08月04日発行)」に掲載されたものです。

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