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2008年9月1日

神との一体化へのプロセス:ヨーガ(宗教9)

今回は宗教の最終回で、最近ブームにもなってきているヨーガについて、宗教的見地からまとめます。

 
ヒンドゥーの聖地と呼ばれる場所を訪れたら、苦労することなくヨーガの修道者と出会うことができます。彼らが腰に巻き付けたわずかな衣服と長くのびた髪は、まさに人間の営みを忘れてしまったかのように見えます。しかしその肉体には、脈々と生命が息づいています。ヨーガの本質がここにあり、それは生きながらその生を超越することで得られる至福、幸福感の獲得です。

 
宗教の7回目で、解脱することで自己を宇宙の根本原理であるブラフマンに帰一し、永遠に一体化することができるという梵我一如(ぼんがいちにょ)について示しました。ヨーガは、梵我一如を実現する実践行法であり、解脱へのプロセスです。

 
ヨーガという言葉は、「馬を馬車につなぎとめる」という意味の動詞「yoke」の語源となったサンスクリット語から来ており、「馬を御するように心身を制御する」ということです。これが後に抽象化され、自己を宇宙の根本原理である神と「結合」させることを意味するようになりました。

 
ヨーガの起源は、紀元前2500年~1800年のインダス文明にまでさかのぼります。同文明の都市遺跡のモヘンジョ・ダロから、坐法を組み瞑想する神像や、様々なポーズをとる陶器製の小さな像などが見つかっています。ヨーガという語が見出される最も古い書物は、紀元前800年~紀元前500年の『タイッティリーヤ・ウパニシャッド』で、さらに紀元前350年~紀元前300年頃に成立した『カタ・ウパニシャッド』には、「感官の確かな制御がヨーガである」というヨガの最古の説明が記載されています。また、ヨーガはバラモン教、仏教、ジャイナ教の修行法でもありました。

 
ヨガにはいくつかの流れがありますが、代表的なものは2つあります。そのひとつは2世紀~4世紀ごろに成立した、人間の俗的な欲望をコントロールし、止滅させることにより、この世を聖なる世界に作り変えようとする古典ヨーガ学派です。

 
もうひとつは、12世紀~13世紀に出現した、積極的に肉体的改変を行うことで急激な意識改革を行い、神々と一体(梵我一如)となろうとする、ハタ・ヨガです。現在世界中に普及しているヨーガはこのハタ・ヨーガの方法です。内容としては難しい坐法や呼吸法を重視しています。

 
ヨーガのポーズの大きな目的の一つに、体の下の方に溜まっているエネルギーをいかに上に上げるかということがあります。人は呼吸と一緒に宇宙のエネルギーを吸い込み、そのエネルギーは頭の後ろにある松果体を通って体中に流れていきます。しかし残念なことにこのエネルギーは下に滞りがちで、脳の方まではなかなかきません。その上、エネルギーの通る道である背骨が硬い人は、なおさらスムーズに上がらないのです。そのためヨーガでは、いかに背骨を柔軟にするかが重要視されています。ですからヨーガのポーズはほとんどが、背骨の運動となっています。

 
古典ヨーガは、その後3つの近代ヨガへと発展して行きました。(1)連続的にいろいろなポーズを行っていく「アシュタンガヨーガ」、(2)ひとつひとつのポーズを決めた後しばらく静止して瞑想する「アイアンガーヨーガ」、そして(3)高めの室温のなかで一連の動作を行い新陳代謝を促進させる「ビクラムヨガ」です。

 
それに加えてこれら近代ヨガに筋力トレーニングの要素を加えて改良したものが、パワーヨーガと呼ばれ、ダイエット効果があるとして米国などで特に人気となっています。

 
現在ヨーガは特に米国で大ブームとなっています。米国では20%を超える速度ででヨガ人口が拡大しており、現在1,650万人と見込まれ、そのうち77%が女性で、市場規模は30億ドルに達しています。その影響で日本でもヨガ人口は増えており、昨年の調査で日本のヨガ人口は33万人まで増えています。タイガー・ウッズ、ビーナス・ウィリアムズなど、多くの有名選手もヨーガを練習に取り入れています。また、「ヨガは呼吸を整え、心身をリラックスさせる効果がある」として、外科手術を受けた人のリハビリにも利用されています。

 
次回は政治の9回目で、カシミール問題について述べていきます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.129(2008年09月01日発行)」に掲載されたものです。

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