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来星記念インタビュー

2012年4月2日

“カジノ解禁”の機運を海外から後押ししたい

カジノ総合リゾート カジノ部門勤務 テーブルゲーム スーパーバイザー 作原典行さん

p1シンガポールのカジノの隆盛で、注目を集めている日本人がいる。シンガポールのカジノ総合リゾートのカジノ部門にオープン当初から勤務し、日々現場を管理・監督している作原典行さんだ。英語が全く話せず、計算も苦手だったにもかかわらず海外に飛び出し、立ちはだかる壁と格闘しながら着々と道を切り拓いてきたフロントランナーが、その胸の内を語った。

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カジノディーラー、そのお仕事に興味津々です。

作原

日本ではなじみが薄い仕事ですが、海外では花形の人気職種。国籍や学歴に関係なく実力勝負でキャリアを積むことができます。適性としては、第一に不正をしない誠実な人間性が求められます。ディーラーを10年以上やっている人なんかは、瞬時に億単位の配当計算ができる。計算しているというより反射的に暗記しているんですよ。これはやっぱり技術だな、と思います。加えてお客様を楽しませるエンターテイナーの素養も必要。特に接客のセンスは素質によるところが大きいといえますね。

私は現場を管理するスーパーバイザー職なので、ゲームが円滑に行われているかどうか複数の台を同時進行で監視し、ディーラーの間違いやトラブルを解決する役割をも担っています。日々予想だにしない出来事に直面し、そのつど瞬時に的確な判断と対応を迫られるので難しいですが、その分やりがいはひとしおです。

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英語が苦手だったということですが、なぜ海外に。

作原

カジノディーラーという職業に興味を持ち、東京に開校したカジノスクールで1年間総合的に学んだ後、学校から海外インターンシップ生の一人として選抜され、北マリアナ連邦のテニアン島にあるカジノ施設で1年間、実地訓練を受けました。お客様の多くが日本人でしたから英語が苦手でも何とかなったのですが、ゲーミングの最中、ミスした場合に自分が何をどのように間違えたかを上司に英語で報告できず、上司がお客様に説明を求めたことが悔しくて涙したこともありました。計算も苦手でしたが英語よりはマシと思い、だったら技術を磨いて一番になってやろうと、プライベートの時間もブラックジャックやルーレットの配当の練習に費やしました。

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インターン後の進路は。

作原

1年間の研修が終わり、そこでスタッフとして採用されました。しばらくして英国人の上司がニュージーランドのカジノ場に転職するというんですよ。尊敬する上司のもとで成長したいとの思いもあり、自分も連れて行ってくれと頼み込みました。上司の推薦のおかげで転職できたものの、欧米人のお客様が多い職場。下手な英語をしゃべりながらも突っ走っていた私を見かねたのか、上司が英会話の練習相手になってくれたんです。さらに上司や同僚が引き立ててくれて係長的なポジションに就き、その後転職をしてスーパーバイザーという役職を与えられました。

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係長的な役割を経て課長クラスに出世されたということですね。

作原p2

実はテニアンにいた頃から、周りは私のことを”グッドコミュニケーター”と呼んだ。言葉ができなくても、国籍関係なくフラットにつき合うことが何よりも楽しかったので、誰とでも飲みに行ったし、相手に興味があったから相手を分かろうとしたんです。人を楽しませることも幼少の頃から得意でした。技術力だけでなく、コミュニケーション力も含めて総合的に評価されたのだと思います。

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そしてさらに転機が。

作原

シンガポールではカジノの合法化に踏み切るということで、カジノ業界でも大きな話題になりました。職員の募集が始まり、周囲がこぞって応募していたので、私も履歴書を出しておこう、と。しばらくして合格通知が来たんですね。ニュージーランドには尊敬する上司と励まし合える仲間がいたので断ろうともしました。しかしこれは千載一遇のチャンスだといって上司や仲間が背中を押してくれたので、渡星を決意しました。

AsiaX

現在、日本ではカジノ解禁に向けた動きが現実味を帯びてきている中で、シンガポールの成功事例が引き合いに出されることも多くなっていますね。

作原

確かにカジノリゾートの運営手法、国家主導による厳格な管理など、シンガポールの事例は研究しがいがあると思います。シンガポールではカジノの開設を許可したことにより、その税収は2011年4月からの10ヵ月で日本円にして約591億円だったと報じられていますが、この小さな国でこれほどの効果が出ているんですから、日本にカジノを核としたリゾートが誕生したなら、その税収の大幅増が見込めるのは明らか。雇用面でいうなら、私の勤務している職場では高齢者の雇用促進にも一役買っている上に、人手が足りなくて近隣諸国からも働き手を受け入れているほど。大阪府の橋下知事や千葉県の森田知事などをはじめとして、日本から議員や行政、地方自治体関係者の方々がひんぱんにシンガポールを視察していますし、経済界の方や文化人なども多く訪れています。実際、カジノの誘致を促進しようとしている日本の関係者の方から、現場側の声を求められることも増えていますね。実際の生の体験や考えをお話しするだけでもまず驚かれますし、非常に参考になると言っていただいています。

AsiaX

来星してからご自身に何か変化はありましたか。

作原

意識面の変化が一番大きいですね。一人でも多くの部下や後輩を育て、業界の発展に貢献していく責務を背負っているんだと認識しながら行動するようになったということ。

こちらで働き始めてまもなく会いにきてくれた恩師に「ノリの背中を後輩が見ているんだからな」と言われた時、ハッとした。決して成績優秀ではなかった私が今や管理職として注目されている職場にいるという事実が、日本や世界にいる同僚や後輩の大きな励みになっている。私のことをパイオニアとして目標にしてくれているというんです。

カジノが合法化されていない日本では、プロとして本当の意味での実地経験を積む場がなく、海外に単身で渡ったとしても就職するのは非常に狭き門。日本で特別なイベントがある時だけ実技を披露したり、客船の中で期間限定的に働くなど、アルバイトとかけもちしながらの不安定な環境下で経験を積み、将来できるかもしれない日本のカジノ施設に就職したいと、あきらめずに努力している人も多いんです。一時帰国した際には母校に立ち寄り、後輩に技術指導したり、キャリアアップについてアドバイスする機会も多くなりました。

さらに今の会社ではカジノのゲーミングの運営に携わる日本人は私だけなので、私の日本人的な立ち居振る舞いに興味を持ち、それを吸収しようとしている多国籍の同僚や部下も多いんですね。これは非常にプレッシャーですが、日本人としてとても光栄なことだと捉えています。

AsiaX

今後の抱負をお聞かせください。

作原

日本では若い人が未来は暗いと悲観しているという報道が目につきますが、海外の現場にいると全く違った見方ができる。自虐的になる必要はない。日本の将来は明るいんです。「腕を磨けば、いつか日本で働けるチャンスはあるのか」と目を輝かせて私に尋ねてくる世界各国で働く外国人ディーラーだって本当に多いんですから。私は、日本の未来を切り拓く施策の一つとして”カジノ解禁”への機運を海外から後押ししたい。そのための協力なら何だって惜しみません。世界各国に散らばっている同志とともに、日本に向かって強力なメッセージを発信していきたいですね。

作原 典行(さくはら のりゆき)

石原東京都知事によるお台場のカジノ構想が話題になった時期に、東京都内に開校したカジノディーラー養成校「日本カジノスクール」に1期生として入学。1年間訓練を受けた後、インターンシップのメンバーに選抜されテニアン島へ。その後、ニュージーランドに渡り、管理職へとステップアップ。2010年に来星し、シンガポールのカジノ総合リゾートのカジノ部門で開業当初からスーパーバイザーとして勤務中。養成校一番の異例の出世頭として、さらなる活躍が期待されている。海外生活7年目。静岡県出身の38歳。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.209(2012年04月02日発行)」に掲載されたものです。
取材=藤本美鈴

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