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ビジネスインタビュー

2020年10月29日

【JETRO シンガポール事務所 所長】久冨英司さん

 世界的な新型コロナウイルスの影響で日本—シンガポール間の経済活動も制限される状況が続いています。そんな中、今年8月にジェトロ(JETRO)シンガポール事務所の所長に就任された久冨英司さんに、ジェトロ・シンガポール事務所の活動やコロナ禍における動向などをうかがいました。
 

Q.以前もシンガポール事務所にご勤務されていたとうかがっています。久々のシンガポールはいかがでしょうか?

 前回は2007年から2011年3月までシンガポール事務所にいましたので、約9年ぶりになります。久しぶりにシンガポールに降り立ってまず感じたのが、日本食レストランの看板が増えたことです。圧倒的に数が増えました。ショッピングセンターでは、ユニクロや東急ハンズをはじめとした日系の小売店も多く見かけるようになりました。
 
 日本の漫画やアニメも以前に比べて浸透しており、文化面での日本の存在感が増したと感じます。あとは、街ゆくシンガポーリアンがおしゃれになったと感じました。特に女性は髪の毛を染めたり、パーマをかけたり、ファッションも多様化した印象ですね。
 

Q.ジェトロ・シンガポール事務所の主な事業を教えてください。

 日本の中小企業に向けたシンガポール進出支援と日本からの輸出支援です。進出支援については、シンガポールへの進出を希望される企業に情報提供から、販路開拓や拠点開設を中心に支援しています。日本からの輸出は、かつては機械類が主流でしたが、現在は農林水産物・食品、日用品、医療機器や伝統工芸品といった分野が増えています。
 
 すでにシンガポールに進出されている日系企業に対しては「よろず相談」のようなかたちでお手伝いさせていただいています。最も多いのが、貿易に関する自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の活用方法についての相談です。EPAを活用して物品の貿易を行う際に、どうしたらそのメリットである特恵関税の適用を受けられるか、といった実務面の情報提供が中心です。またサービス業の方からは、専門職向けのビザ(EP)や従業員雇用に関するご相談を多くいただきます。
 

Q. ジェトロ・シンガポール事務所では新型コロナウイルスによる業務への影響は出ていますか?

 シンガポール進出については、昨年までは相談件数が増えていましたが、新型コロナウイルスの流行を受けて、現在は一旦落ち着いている状況です。ただ、こうしたコロナ禍でもアグレッシブな姿勢な方もいらっしゃいます。例えば、最近は、地方のオーナー企業の経営者の方などから、ビジネスをすこしでも早く前に進めたいと日本—シンガポール間のビジネス・トラック(短期間のビジネス渡航を特例で許可する段階的な措置)の状況・詳細などについて問い合わせをいただいています。
 
 農林水産物や食品の輸出支援については、これまで日本から自治体やメーカーの関係者の方々がシンガポールにいらして、シンガポール側のバイヤーと直接商談するのが主流でしたが、現在は、オンラインに置き換えています。10月最終週には、ジェトロ・シンガポール事務所の独自開催で日本の6県から50社近くの加工食品業者とシンガポールのバイヤーとをマッチングするオンライン商談会を開催します。11月以降も、同様のマッチング支援事業を実施いたします。
 
 また、これまで行っていた情報提供のセミナーなどもオンラインで実施しています。シンガポールに拠点を置く日系企業の中には、コロナ以前は、シンガポールを拠点にアジア各地を行き来するという企業も多くありました。ただ、現在はそれができないため、各国の現状を知りたいという声もいただいています。特にインドについては需要が高かったため、ジェトロのインド・ニューデリー事務所と連携して、11月11日に在シンガポールに日系企業向けにインドに関するウェビナーを開催する準備なども進めています。
 

Q.近年、特に注力している分野はありますか?

 ハイテク分野の日本企業とシンガポール企業との間のマッチング支援は10年以上前からやっていますが、最近は、より技術オリエンティッド、中でもイノベーション企業のビジネスマッチングの支援を加速しています。例えば、日本のスタートアップ企業に対して、シンガポールへの進出を支援したり、シンガポール企業との間を繋げるためのマッチングを手掛けています。また、すでにシンガポールに進出している大手や中堅・中小の日本企業に対しても、シンガポール政府機関と協力するなどしてマッチング支援をしています。「サーキットブレーカー」以降の支援はオンラインとなっています。
 
 マッチングの例を一つ挙げますと、人物画像の解析技術を持つシンガポール企業と日本企業との間で話が進んでおり、日本企業はこのシンガポール企業の技術を自社の技術に組み込むことにより、顧客向けサービスの用途を広げることが可能となると期待しています。その他にも、秘密保持契約(NDA)を結び、次に実証実験に進む段階の案件もあります。シンガポールの色んな機関の協力も得て、こうしたイノベーション分野でのビジネスマッチングの機会創出に力を入れていきたいと思います。

 

Q.新型コロナウイルスが再流行している国・地域もあり、先が読みにくい状況ですが、ジェトロ・シンガポール事務所としてはどのように事業展開していきますか?

 シンガポール国内は幸い、コロナウイルスの流行が落ち着いています。シンガポール保健省がサーキットブレーカー後の活動再開を3つのフェーズ(3段階)に分けましたが、いよいよ経済再開の最終段階に当たる「フェーズ3」に向かっています。フェーズ3移行によりイベントへの参加人数の緩和等がなされれば、ジェトロ・シンガポール事務所としても、少しずつ対面のイベントを増やしていきたいと考えています。ただ、国境を越えた活動にはもう少し時間がかかりそうです。
 
 また、新型コロナウイルスによる国内経済状況の悪化を受け、シンガポールでは外国人の就労ビザの取得要件を厳格化しました。シンガポール内の日系企業ではよく知られた情報ですが、まだ日本では十分に認知されていないため、特にシンガポール進出に関心のある企業向けには、シンガポールの最新動向を適切なタイミングで発信していきたいです。

 

<略歴>

久冨 英司 (ひさとみ・えいじ)
1991年4月、日本貿易振興会(現 日本貿易振興機構)に入会。海外調査部米州課、富山貿易センター情報センター、カナダ・トロントセンターなどを経て、2007年6月シンガポールセンター次長。帰国後、大阪本部事業推進課や総務部などを経て、2020年8月シンガポール事務所の所長に就任。趣味は「テニス」「歴史(日本史、世界史)」。シンガポールで好きな場所は「シンガポールリバー沿いの緑」。座右の銘「人間万事塞翁が馬」

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