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シンガポール星層解明

2020年6月25日

コロナ禍で加速するシンガポール小売・外食業界の変容

 新型コロナウイルスの感染対策として導入された外出規制措置が、小売と外食業界に与えた影響が明らかになった。4月の小売売上は前年同月比で40.5%減となり、中でもファッションと百貨店は80%超の減少を記録した。同様に、4月の外食売上は前年同月比で53.0%減となり、通常売上の半分は自炊に切り替わった。本稿では、両業界で加速するオンライン販売へのシフトにも触れながら、コロナ禍で生き残るポイントを考察していきたい。
 

4月の小売売上は前年同月比40.5%減
ファッションと百貨店は80%超の減少

 シンガポール統計局が6月5日に発表した4月の小売販売データによると、4月の小売業全体の売上高は21億Sドル(約1,650億円)と、前年同月比40.5%の減少となった(図1)。この落ち込みは、統計を開始した1985年以降で最大となり、新型コロナウイルスの感染対策として、4月7日からスーパーなどを除く大半の実店舗で営業が禁止されたことが大きく影響した。
 

 
 カテゴリ別では、腕時計・宝石、衣料品・靴、百貨店の奢侈品がそれぞれ前年同月比で87.8%、85.3%、84.6%と大きく減少したほか、全14カテゴリの中で12カテゴリは前年同月の売上を下回る結果となった。一方、スーパー・ハイパーマーケットは74.6%、ミニマート・コンビニは10.7%それぞれ前年同月の売上から増加した。シンガポール政府が導入した外出規制措置「サーキットブレーカー」によって店内飲食が禁止され、自宅で自炊する消費者が増加したことが背景にある。
 
 百貨店の業績は、新型コロナウイルス禍からの回復後も厳しい状況が続くとみる。既に直近では昨年9月にメトロがセンターポイントの旗艦店を、伊勢丹が今年の3月にウェストゲート・モール店をそれぞれ閉店しており、8月にはロビンソンズがジェム店を閉店する予定である。閉店の背景には、郊外型モールの出店、専門店の成長、越境ECを含めたオンラインショッピングの普及により、消費者の選択肢と購買体験が拡充されてきている点が挙げられる。またオーチャードのセンターポイントに入居していたメトロ跡には今年中にスポーツ専門店のデカトロンが、ジュロンのジェムに入居するロビンソンズが退去した後には家具専門店のイケアが来年中に出店を予定していることも、百貨店から専門店へのトレンドを物語っている。
 

急成長するオンラインでの販売比率
越境ECも含めた市場は更なる規模

 コロナ禍で小売業全体の売上高が減少する中、消費者がパソコンやスマホを利用して商品を購入するオンラインでの販売比率は拡大を続けている。4月は売上全体の17.8%がオンラインでの販売となり、実店舗が通常の営業をしていた3月の8.5%から倍増している(図2)。
 

 
 カテゴリ別でみると、在宅での勤務と学習が常態化した4月には、パソコン・通信機器と家具・家庭用品のオンライン販売比率がそれぞれ70.6%、50.4%と過半を占めている。実際に、シンガポールで2店舗を展開する家具販売大手のイケアでは、4月と5月のオンライン売上高が通常時に比べて3倍以上の伸びを記録し、中でもオフィスチェアとデスクの売上は前年同期比で31%増加したという。
 
 また図2に記載されたオンライン販売比率は、国内の小売業者からの販売データのみが基になっている。このため、国外のネット店舗から購入する越境ECも含めた消費者の実際のオンラインでの購買行動は、ファッションを中心とした一部のカテゴリにおいては記載された数値以上に普及しているとみる。
 

4月の外食売上は前年同月比53.0%減
オンラインの販売比率は39.2%まで拡大

 新型コロナウイルスの感染拡大によって小売業界と並んで甚大な影響を受けている外食業界。4月の外食業全体の売上高は3.97億Sドル(約303億円)と、前年同月比53.0%の半減となった(図3)。全体の売上高には、店頭での持ち帰りやスマホのアプリやパソコンから注文するデリバリー(配達)分も含まれている。4月においては、通常時の外食売上の約半分は自炊によってカバーされたことになり、図1におけるスーパー・ハイパーマーケットの売上の伸びの背景となっている。
 

 
 フードデリバリーを中心に、外食業界のオンライン売上比率はコロナ危機前の1月の9.8%から4月には39.2%まで拡大しており、売上ベースで1月の0.94億Sドル(約71億円)から4月の1.56億Sドル(約119億円)と約7割の増加を記録している。
 

玉石混淆のフードデリバリー企業
ストレスフリーな顧客体験の提供が要

 ニールセン社の調査によると、シンガポールの消費者の14%はコロナ禍で初めてフードデリバリーを利用、そのうちの68%は今後も利用する意向を示している。足元の需要拡大に加えて、中長期的にも期待される市場の成長を見据えて、新参企業が相次いでサービス提供を開始している(図4)。
 

 
 新規プレーヤーの参入で企業間の競争が激化することにより、消費者は注文先の選択肢の拡充やサービス手数料の低下といったメリットの享受が期待できる。しかしながら、消費者に支持される価格とサービスレベルを継続的に提供しつつ利益を確保していくことは容易ではなく、資本力に劣る企業が淘汰されるのは時間の問題とみる。実際にデリバルーは、大手の一角でありながら苦戦を続けており、今年の4月には、グローバルでのリストラの一環として、シンガポールで働く80人のスタッフのうち、20人を解雇することが報道されている。
 
 小売と外食業界におけるオンラインでの販売は、新型コロナウイルスの発生を契機にこれまで以上のスピードで市場の拡大が進み、あらゆる世代の消費者にとって日常生活から切り離せない存在になってくるとみる。小売と外食の事業者においては、消費者の生活の一部となるべく、いかに実店舗での購買や店内での飲食と同等、またはそれを上回るストレスフリーな顧客体験を提供し続けられるかが成否の分かれ目になる。
 

ピックアップニュース

4月の小売業販売額が激減、「サーキットブレーカー」が主因
(2020年6月8日付)
 
 


山﨑 良太(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。
週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

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