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ビジネスインタビュー

2020年5月16日

洋服のレンタルサービス 「スタイルセオリー」創業者インタビュー

Style Theory 共同創業者:Raena Lim さん

 2016年にRaena Lim(レーナ・リム)とChris Halim(クリス・ハリム)が立ち上げた「StyleTheory(スタイルセオリー)」。デザイナーアパレルをレンタルできるサービスプラットフォームで、2千人以上のデザイナーバッグと5万着以上のデザイナー服を扱い、20万人以上のユーザー数を誇る。2017年にはインドネシアマーケットにも進出。2019年にはソフトバンク系ファンドなどから16億円の資金調達を発表し、ニュースを賑わせた。東南アジアで最大のアパレル・レンタル・サービスに成長した同社。無限クローゼットを手頃な値段で利用できる上に、環境にも優しいとローカルの女性を中心に大人気となっている。共同創業者であるレーナさんに話を聞いた。
 

 

起業のきっかけを教えてください。

 自分が欲しかったサービスを作りました。第一に、忙しい現代女性にとって、洋服選びに関して頭を悩ませる問題が大きすぎるためです。第二に、現状のファスト・ファッションが牽引する消費活動には環境への代償が大きい。それらの問題に解決策を見出したい、それが起業のきっかけです。
 
 クローゼットには沢山の洋服がかかっていませんか。それなのに、外出前に服を探して「着るものがない!」と慌てる経験は、女性なら誰にでもあるはずです。私もまさにそうでした。ずっと前に買って着ていない服がクローゼットに眠っていますよね。「もっと似合うものがあるのではないか?」とエンドレスな欲求が収まらず買い物に行って、数回しか着ない流行色の服を買うか、つまらないけれど安心な定番色かを迷います。どちらを選んでも結局満足がいかず、洋服のショッピングを繰り返して、買ったものの着ない服が増えていく。このように私たちは「買っては捨てて」の無駄な消費活動をしています。環境にもよくないことです。
 
 そして、ショッピング自体も戦争のようなもの。ショッピングに行く時間の確保や、デザイナー服であれば、高価なドライクリーニングもアレンジする必要があります。このようなストレスから解放され、ちょっぴり冒険できるスタイルを、簡単に提供できるサービスはどのようなものかを考えました。シンガポールの家は小さいため、限られたスペースで自分の好きな洋服に囲まれたライフスタイルを女性に追求してほしい、そのために無限クローゼットのようなサービス「スタイルセオリー」を起業したのです。
 

「スタイルセオリー」ではどのようなサービスがありますか?

 デザイナーアパレル版とバッグ版に分かれていますが、アパレル版では月69Sドルのサブスクリプション料金で、3着のデザイナー服を選び1ヵ月着用することができます。また月129Sドルなら1回3着レンタル、179Sドルなら1回5着レンタルし、いずれも月で何度でも交換できる無限クローゼットのようなものです。
 
 ユーザーがアプリで好きな洋服を選んで日時を指定すると、ドライクリーニングされた洋服が、専属デリバリー担当ドライバーにより自宅まで届きます。着用した洋服は洗う必要がなく、アプリで指定した日時に自宅に引き取りに来たドライバーに渡せば終わりで、ユーザーへの負担が少ないのが特徴です。また働いていて自宅を不在にすることが多いユーザーであれば、島内に4ヵ所あるピックアップロケーションから引き取りも可能です。
 

 

ファッション業界業界のご出身なのですか?

 いいえ。元々金融業界の出身なので、全く異なるファッション業界の仕組みについて、一から学ぶ必要がありました。ゼロから新しいビジネスを構築して、成長の勢いを維持することはとても難しかったです。共同創業者であるクリスがメンターとなってくれたので、とても助けられました。
 

シンガポールのファッション業界の傾向を踏まえて、ビジネスモデルで工夫されたことは?

 シンガポールもファスト・ファッションの台頭が目覚ましく、多くの消費者に支持されてきました。しかし、アパレル・ファッション産業は石油業界に次いで、2番目に環境汚染を生み出している産業です。特にファスト・ファッションは、大量の環境廃棄物の原因となってきました。そのため、私たちは、シェアリング・エコノミーベースでサブスクリプション形式のビジネスモデルであれば、これまでのファッションに対する消費活動を変えられると考えました。幸い、シェアリング・エコノミーは、Airbnbや Grabなどを通じて、消費者にとってすでに馴染みあるコンセプトだったので、ファッションの分野でも受け入れられるだろうという見込みがありました。
 

今後、”レンタルする” 消費活動への移行は加速していきますか?

 シェアリング・エコノミーのモデルは、ファッションの分野でもより加速すると思います。一般的に最近の消費者は必要最低限のものを購入し、他はレンタルするという消費行動を取ることがわかっています。スタイルセオリーのビジネスモデルもそれに沿っていますが、消費者は最新の流行などの実験的な要素をレンタルする際に取り入れるのです。買っては捨てる購買活動に慣れた消費者や社会にとって、「レンタルする」発想はライフスタイルそのものを変えることに等しいです。それでも社会貢献意識が強いミレニアル世代が牽引し、よりサステイナブルな消費行動へと社会全体が移行している段階にあると考えています。
 

起業の過程で最も大変だったことは?

 2016年当時は、競合がいなかったため、右も左もわからない状態で事業構想を練りはじめた記憶があります。私たちの提供するサービスを、市場が受け入れる準備ができているのかがわかりませんでした。例えば、どの洋服やスタイルをストックリストとして買えばよいのか?どの洋服の在庫を厚くすれば良いのか?潜在顧客が求めるものがデータとして見えていない状態でした。オペレーションを開始し、サブスクライバーが増えるにつれて顧客分析に必要なデータを集めることができたので、その問題は解消しました。また、会社を運営する人材探しにも苦労しました。スタイルセオリーのミッションに共感し、ファッションに革命を起こす意気込みがある人々と働きたいためです。
 

シンガポールの女性たちが、スタイルセオリーのコンセプトに共感した理由は何だと思いますか?

 新しいスタイルへの挑戦を恐れず、洋服のメンテナンスや洗濯の時間を節約したい女性たちが沢山いたのだと思います。
 

スタイルセオリーには、レンタルして着用した結果、気に入った洋服を購入するオプションがあります。ユーザーには最終的に購入してほしいですか?それともレンタルし続けてほしいですか?

 特別な行事などで一度限りしか着ない洋服は、買うよりはレンタルしてほしいと思います。そうでない普段着には、サブスクリプションをしてレンタルし続けるもよし、購入オプションを取るもよし、どちらのユーザーの要望にも応えられるようにしています。ただ、基本的には、私たちはレンタルとサステナビリティを二本柱にした、循環性を大事にするビジネスです。
 

ビジネスのゴールはなんですか?

 私たちにとっての成功の定義は、消費者が洋服のレンタルを当たり前のこととして生活の一部に取り入れることです。購入とレンタルにまつわるマインドセットに変化を起こし、多くの人がこのアイデアに共感すれば、サステイナブルな社会にシフトしていくことができます。究極のゴールは、「新しい洋服がほしいと感じた時に、購入よりは魅力的でないとしても、購入活動を最初の選択肢からなくすこと」です。購入と同等にレンタルを選択するマインドセットに変化してほしいです。これを達成するためには、ユーザーのクラウドベースの無限クローゼット体験を素晴らしいものにすべく、強いインフラストラクチャーを整えることが重要だと考えています。
 
 ファッション業界でサステイナブルな社会をリードする会社として、環境に配慮したオペレーション上の改善も積極的に行っています。例えば、レンタルした洋服を入れる箱のかわりにエコバックを使って紙を減らし、包装紙をなくすオプションを取り入れることで、年間3万6,000枚の包装紙の使用を減らすことができています。
 

AsiaX読者の働く女性たちに、何かメッセージはありますか?

 自分がよく服を買うブランドが、何をしているかに興味をもってください。また、その洋服が自分が本当に必要なものなのか、問いかけてみてください。なぜ買うのか、どのように買うのかを考え始めた時に、自分が購入することで社会や環境にどのようなインパクトがあるかに意識が向くようになります。
 

週末はどのように過ごしていますか?

 インドネシアとシンガポールのオフィスを行き来して忙しい生活なので、シンプルに過ごすことが好きです。旅の荷物を少なくするための多目的に使えるスキンケア商品を試したり、とにかく美味しいものを食べたり!これが一番の楽しみかもしれません。
 


Raena Lim(レーナ・リム)
シンガポール人。Style Theory の共同創業者、COO。デザイナーやヘアスタイリストである親戚からクリエイティブな影響を受けて育つ。ケニヤ、アフリカなどの非営利団体でボランティアとして働いた後、より社会に直接インパクトを与える仕事をしたい、とゴールドマンサックスでの5年のキャリアを捨てて起業したのが2016年。共同創業者のChris Halim(クリス・ハリム)と始めたサービスで、現在は100人を超える従業員をシンガポールとインドネシアに抱える会社に成長させた。

(取材・文/舞スーリ)

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