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会計・税務相談

2020年5月14日

Q.シンガポールへの出張者の税務上の取り扱いについて

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Q.シンガポールに事業所がなく、日本の会社の社員が観光ビザで月に1週間程度出張して営業活動を行っています。このような出張者に関するシンガポールでの税務上の取り扱いについて教えてください。

 税務上の取り扱いの前に、まず外国人がシンガポールで就労するには、短期間であっても原則として労働ビザ(Work Passes)が必要になります。ただし、特定の業務のために短期間(最長で暦年に合計90日以下)入国する場合に限り、入国後に人材省(MOM)に届出を行えば、労働ビザがなくてもシンガポールで就労することができる制度があります。また、社内会議、法人の撤退、取引先との面談、研修旅行、セミナーの受講、展示会の見学などの活動による観光ビザの有効期間内の短期滞在(シンガポールの事業主との業務委託契約または雇用契約に関連するものを除く)については、MOMへの届出なく行うことが認められています。
 
 さて、本題の税務上の取り扱いですが、シンガポールの税法は、シンガポールで得た所得についてシンガポールで課税すると定めており、日本からの出張者が観光ビザでシンガポールに入国して取引先訪問を行うことは「シンガポールで行われた役務提供」にあたり、シンガポールで雇用所得を得たことになります。ただし、短期的に役務提供する非居住者への救済措置として、暦年にシンガポールで就労した日数が合計60日以下であった場合には、シンガポールで得た雇用所得について免税扱いとなり、申告も免除されます。尚、3暦年以上にわたり継続的に滞在する場合の最初または最後の暦年の就労日数が60日以下となる場合は、これに該当しません(例えば、2019年12月1日に赴任し、2021年2月28日に帰任する場合の2019年と2021年)。
 
 暦年のシンガポール就労日数が合計60日を越えた場合は、出張者もシンガポール内国歳入庁(IRAS)に所得を申告しなければなりません。このうち、就労日数の合計が183日未満だった場合には非居住者として課税され、183日以上だった場合には居住者として課税されます。非居住者には、扶養控除などの所得控除が適用されません。また、非居住者の雇用所得は、賦課所得に15%の税率を乗じた場合と居住者用の累進税率を適用した場合を比べ、高い方の税額で課税されます。なお、日本とシンガポールは租税条約を締結しているため、租税条約の雇用所得に関する減免の要件を満たすようであれば、IRASに所得申告した上で租税条約による免除を申請することにより、シンガポールでの課税が免除される場合があります。
 

Q.就労日数は、土日や祝日を除いてシンガポールで仕事をした日数を数えればよいですか。

 そうではありません。シンガポールへの出張者の場合、シンガポールに入国した日およびシンガポールから出国した日の両方、並びに滞在期間中の土日などの休業日も含め、シンガポールに数時間でも滞在した全ての日数を就労日数として数えます。例えば、日曜日の夜10時着の便でチャンギ空港に到着し、土曜日の朝6時発の便でチャンギ空港を出発する、というスケジュールでシンガポールに出張する場合、1回の出張の滞在期間は7日になります。このような出張を暦年に9回以上行うと、シンガポールで所得申告をしなければなりません。
 

Q.課税の対象となるのはどのような所得ですか。

 基本的にはシンガポール居住者と同じで、給与・手当・賞与・出張日当・支度料など、シンガポール国外の雇用主から支給される現金給与および雇用主が負担するの年金基金への拠出金や光熱費、車両、保険料などの現物給与のうち、シンガポールでの役務提供に関する部分について課税されます。また、シンガポールの法人がこれらの現金・現物給与の一部を負担しているような場合、それも所得に含める必要があります。但し、出張者のシンガポールでの就労については、2016年1月1日より、宿泊費および業務上の交通費・交際費手当は出張の必要経費として課税の対象外となりました。また、日当については、IRASが定める限度額(2019年は141Sドル、2020年は140Sドル)までは免税となります。
 
 

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Tricor Singapore Pte Ltd 斯波澄子

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