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2013年4月15日

在星日本人の健康を支えて30年さらなる向上を目指して

ニホンプレミアムクリニック院長 橋口宏さん

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現在ニホンプレミアムクリニックの院長である橋口宏氏が、30年前に医師として来星する以前から、シンガポールにも日本人の医師はいた。第2次世界大戦前の日本人街には日本人が開業する医院が存在し、その活動範囲はシンガポールだけでなくペナンなど現在のマレーシア北部にまで及んでいたという。終戦を経て再び日本人の在留が許可された1950年代以降、シンガポール・ジェネラル・ホスピタルの勤務医や、教会派遣の医師などにも日本人がいた。

 

 

橋口氏の母校である岡山大学やその出身者らが中心となり、シンガポールで初めて「日本の医療を提供するクリニック」としてジャパン・グリーン・クリニックがオープンしたのが1983年。当時は、海外で活動する日本人医師が今よりはるかに少なかった。

 

 

当時のことで今でも橋口氏が忘れられないのは、ある大手企業の駐在員を診察した時のこと。「つかぬことを伺いますが……先生たちは、日本で何か悪いことをして仕事ができなくなったからシンガポールに来られたんでしょうか」。真面目な顔で問われ、「そういう考え方があるのか、とあ然として返す言葉もなかった」と氏は苦笑いする。

それから30年が経ち、急速に発展を遂げたシンガポールと同様に、日系医療クリニックを取り巻く環境も大きく変わった。日本人医師が常駐し、日本スタイルの診療を行うクリニックの数も増加。海外で経験を積みたい、と志願する医師の数も随分増えた。

 

 

岡目八目――海外だから見えた日本の医療の姿

シンガポールへ来る前に、米ニューヨークのコロンビア大学医学部外科人工臓器・臓器移植部で講師として、のちには助教授として学生達の指導や研究にあたっていた5年間を含めると、橋口氏の海外での活動は30年を超えている。「長年日本以外の国のことを見てきたので、岡目八目で日本の医療のいろんなことがよくわかる」と氏は言う。

「日本にいる方はほとんどご存知ないんですが、日本の医療システムや健康保険の仕組みというのは、欧米諸国と比べるとかなり特殊なんですよ、とお話ししても、なかなか理解を得られないことが多いんです」。

江戸時代に儒学者の貝原益軒が書いた『養生訓』にも出てくる「医は仁術なり。仁愛の心を本とし、人を救ふを以て志とすべし」という言葉が日本の医療では標語のようになっていて、医師が金銭的な話をすることがあまりにもタブー視されてきた。「医師に大きな負担がかかる割に収益の上がりにくい、小児科医や産婦人科医のなり手が少なく、医療の崩壊が起き始めています。必要な医療を存続させるため、治療の内容ごとに一律で点数を付けるのではないシステムが必要。その中には、医師の経験や技量に合わせた治療費が設定される自由診療も患者の選択肢とされるべきだ」と氏は考える。

橋口氏がしばしば口にする“自分の患者さん”という表現には、「自分が責任を持って治さないといけない」という思いがにじんでいる。“自分の患者さん”を治すためには、自分の力で治療するだけでなく、必要に応じて専門医にも入ってもらって知恵を出し合い、皆で何が一番良いのかを考えたい――それほど難しいことには聞こえないが、日本だけでなくシンガポールでも、複数の科の医師が一緒に治療にあたることは一般的ではない。氏は長年このアイディアを温め、ついに実現したのが、2009年に開院したニホンプレミアムクリニックだった。

 

 

「患者×主治医×専門医」三者一体での治療への取り組み

シンガポールでは、日本の医師免許を持った医師が診療できるのは日本国籍を持った外来患者のみ。橋口氏の専門は外科だが、氏が専門医として入院患者を受け持ったり、日本人以外の患者を診察することはできない。ニホンプレミアムクリニックでは、この制約をいわば逆手に取っている。まず日本人医師が主治医として患者を診る。総合診療の枠を超えるケースについては専門医に来てもらい、これからどのように治療を進めていくかを一緒に考える。橋口氏らが“専門医の出前”と呼ぶ同クリニック独自のシステムだ。

4年前の開院直後は、ほとんどの専門医にとってもなじみのないシステムだった。橋口氏ら日本人医師の診察室に自ら出向き、一緒に担当患者を診ることに専門医側にも少なからず抵抗があった。一方、患者が入院すると、専門医の回診に“主治医”である橋口氏が同席するために出向く。それを見た専門医は「何しに来たんだ?」と怪訝な表情を浮かべることもあった。しかし、橋口氏にしてみれば、その余計な一歩ともいえる領域にまで踏みこんで患者に関わることが、“自分の患者さん”をきちんと治すためには必要なことなのだ。最近では専門医も慣れて、「患者とのこういう関わり方もありなのかもしれない」と受け入れるようになってきた。

「必要な場合、専門医には、主治医である僕と、患者さん、それにその家族も加えた話し合いに参加してもらうこともあります。話し合いの中で、医師からは治療方針について十分な説明を行い、患者さんの側に疑問があれば遠慮なく専門医に質問して、不安を解消してもらいます。同時に、専門医には患者さんの生活スタイルやスケジュールなどを伝えて理解してもらうこともできます。専門医、主治医、患者さんとその家族が一緒に考えることで、患者さんにとってベストの治療が実現できるようにしています」。現在ニホンプレミアムクリニックがあるノヴィナメディカルセンター周辺には、タントクセン病院、昨年7月にオープンしたばかりのマウントエリザベスノヴィナ病院など大規模な医療施設が揃い、数多くの専門医がすぐそばに居ることも“専門医の出前”を機能させるには有利だ。さらに、内科医と外科医が一緒になって治療方針を検討する、あるいは神経外科医と整形外科医、ペインクリニックの専門医が長期的に患者の痛みを緩和する方法を検討する、といった各科の枠を越えた取り組みが、ここでは可能になっている

 

 

シンガポールでの医療サービスの強化

ニホンプレミアムクリニックには、今年新たに日本人の眼科医と整形外科医が加わった。

「ゴルフで腰を痛めた、テニスで肘を痛めた、エアロビクスでひざを痛めた、など、スポーツでのケガや故障に対する治療のニーズは高いので、スポーツ医学を専門とする整形外科医に、そちらの分野での診療を確立してもらうつもりです。眼科については、結膜炎などの感染症だけでなく、比較的年齢が若い方でも緑内障や白内障などのケースもみられます。先日、眼圧が急に高くなって頭が割れるように痛い、吐き気もひどいと訴える患者さんが来院し、すぐに眼圧を下げる点滴を行って事なきを得ました。早く処置できていなかったら失明の恐れもあった状態で、眼科医がいて良かったと思いました。また、小児の近視や仮性近視、弱視についての相談も多くあるので、お子さんがいる方々のお役に立てているのではと考えています」。

専門医との提携は今後さらに拡大するという。週末にも多数の患者が来院し、いずれの医師も多忙を極めているが、橋口氏の目指す「患者本位」の医療サービスを実現すべく、同クリニックの進化はまだまだ続く。

Nihon Premium Clinic
#11-12/13/30 Novena Medical Center 10 Sinaran Drive 307506
TEL:6397-2002

Novena Medical Center 10 Sinaran Drive Singapore 307506

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.232(2013年04月15日発行)」に掲載されたものです。
文=石橋雪江

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