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経営者コラム 社長の横顔

2019年11月25日

最終回 前セブン&アイホールディングス会長 鈴木 敏文

 「自分の経営スタイルなんて特に考えた事はない。ただ、いつも“何故だ?”と思うようにはしてきました」。旧イトーヨーカ堂(現セブン&アイホールディングス)社長時代にインタビューした時の鈴木敏文の言葉だ。

 

 2016年4月7日。当時83歳の鈴木は緊急記者会見で「セブン&アイ会長(当時)を退任する」と発表。世間を驚かせた。鈴木は米国のコンビニチェーンを日本導入の先駆者だ。と同時にイトーヨーカ堂グループを日本最大級の流通グループに育てた功労者でもある。伊藤雅俊名誉会長の信頼も極めて厚かった。

 

 だが、そんな鈴木を会長から追い落とそうとする社内の動きが発覚。まさにクーデターだ。鈴木自身「何故だ?」と思ったに違いあるまい。社内に鈴木を「天皇」とまで批判する声と不満が培養されていたのだ。

 

 そのくらい鈴木は権勢を振るい、畏怖されてもいた。外部から入社させ、グループ会社の要職に据えた子息の女性スキャンダルにまつわる怪文書も出回り、鈴木を追い詰めていく。背景には名誉会長の逆鱗に触れた可能性も囁かれた。

 

 そうした3年前の詳細に触れるつもりはないが、超ワンマン経営者の失敗事例としての話だ。しかしながらイトーヨーカ堂社長時代の絶頂期を手中にしていた鈴木は私のインタビューではこうも語っていたものだ。

 

 「長い間オーナーの近くにいて、ご機嫌を取るとかはしたことないですよ。逆に私がズバズバと文句を言う方ですからね(笑)。だから “お前は会社辞めろ!” と言われればそれまでです」

 

 そしてこう話を付け加えた。

 

 そんな鈴木が、のちに一部役員の策動とワンマン批判、挙げ句に怪文書が外部に出回るなどして無念の退任劇。好事魔多しだ。

 

 イトーヨーカ堂社長時代、自らが誕生させた子会社セブンイレブン・ジャパンの経常利益が1000億円を達成し、親会社ヨーカ堂を上回った辺りから経営者としての自信を増した。だが、次第に「裸の王様」化していったのではないか。支店長会議中の鈴木の怒鳴り声は外に響いていた。

 

 日本にコンビニブームを築き、世の中に買い物の利便性を高めた功績は大だ。その一方で昨今は深夜遅くまで営業を余儀なくされるフランチャイズオーナー達から “反旗” を翻されて、その在り方が社会問題視されている。時代は変わるのだ。唯我独尊の社長の末期は哀れ。そんなケースはマスコミ世界の門外漢に多い。そういえば鈴木敏文はトーハン(旧東京出版販売)出身だった。

文=経済ジャーナリスト 小宮和行(こみや かずゆき)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.352(2019年12月1日発行)」に掲載されたものです。

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