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亜州ウォッチ!

2019年9月25日

ベトナム製紙業界:EC活況で急成長へ、日本企業も参戦

第1回 ニュースとデータで読み解くアセアン業界動向

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 

国内Eコマース市場の拡大を背景に、ベトナムの製紙業界に段ボール特需の波が押し寄せつつある。この流れに乗って、日本やタイの有力企業による新規参入や設備増強の動きも目立ち始めた。まず、同国Eコマースの急成長に関する最新ニュースをご覧いただきたい。

 

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ベトナム国内EC市場、23年までに2倍近くに拡大=UPS予想
 米宅配大手のUPSは、ベトナムの電子商取引(EC)市場が2019~23年に85%拡大し、東南アジアで2番目に早いスピードで成長するとの予想を発表した。ベトナム・エコノミック・タイムズが伝えた。UPSベトナムのラッセル・リード社長は、ベトナムの消費者はオンラインショッピングへの関心が高く、政府もECセクターの成長を後押しする構えを見せていることから、高い成長が望めるだろうと説明。またベトナムはアジア太平洋地域における物流の一大ハブになり得る好立地であることから、越境ECの成長ポテンシャルも高いとみている。
(「亜州ビジネスASEAN」9月6日付ニュース)

 

 実際、ここ数年もベトナムのEC市場はハイペースで成長中。毎年2ケタの伸びが続くなか、17年の市場規模は約66億ドル(約7,300億円)に膨らんだ。ベトナム政府が 16 年に発表した「EC 開発計画」によると、20 年には同
市場の規模を100 億ドル(約1兆1,000億円)まで引き上げたい考えだ。
 
 EC市場の拡大に伴う段ボール需要の急増によって、ベトナムの製紙業界は足元で需給がひっ迫する状況。紙・板紙の17年データをみれば、消費量の323万6,000トンに対し、生産量が半分の174万2,000トンにとどまるなど、多量の不足分を輸入に頼らざるを得なくなっている。

 

<日本企業も動き出す>

 需給ひっ迫をビジネス拡大の好機ととらえ、このところは日本やタイの有力企業も現地展開を加速させている。
 今年に入ってからは、タイ素材最大手サイアム・セメント(SCC)傘下で包装材事業を手がけるSCGパッケージングが「ベトナムの生産ライン拡張と設備改修に向けて20億バーツ(約70億円)を投じ、年産能力を現在の50万トンから2万トン引き上げる」と発表。また、日本の丸紅も南部バリアブンタウ省に段ボール原紙生産の100%子会社を設立する計画を明らかにした。このプロジェクトに関連した動きとして、「神鋼環境、丸紅製紙工場の排水処理施設を受注」「星光PMC、南部に製紙用薬品の工場建設へ」「荒川化学工業、南部に製紙用薬品工場」なども
報じられている。
 象徴的な動きとして、丸紅進出のニュースを紹介する

 

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丸紅が新会社、南部で段ボール原紙製造へ

 丸紅は23日、南部バリアブンタウ省に全額出資子会社を設立し、段ボール原紙を製造すると発表した。工場を設け、2020年度下期に商業稼働させる予定。電子商取引(EC)の伸長などによる需要の拡大に対応する。
 フーミー3特別工業団地内に新会社クラフト・オブ・アジア・ペーパーボード&パッケージングを設立した。工事着工に必要な全ての許認可を取得済み。22年のフル稼働時に年産能力35万トンを見込む。丸紅によると、ベトナムで段ボール原紙需要は年率10%以上の成長を遂げており、タイやインドネシアなどを上回るペース。20年代前半にはベトナムが東南アジア最大のダンボール原紙消費国になる見通しという。
(「亜州ビジネスASEAN」1月24日付ニュース)

 

 ECの伸びによる製紙業界の活況は、ベトナムを上回る市場規模のインドネシアやタイでも同様だ。この動きは今後も、広くアセアン全体で顕在化していくだろう。
 今回あえてベトナムを取り上げたのは、EC市場の成長ペースが速いことに加え、産業構造の独自性で包装材の需要が拡大しやすいこと(携帯電話端末・部品、電子部品、繊維・縫製品の輸出ウェートが約5割を占めるなど、EC分野以外でも包装材の必要性が高いこと)が要因だ。
 また、米中貿易摩擦に伴う「漁夫の利」が見込まれる点も見逃せない。日本企業をはじめとする外資系メーカーの間で、中国の生産拠点を周辺地域にシフトさせる動きが表面化するなか、最大の受益者がベトナムになるとの見方が多い。その背景には、中国に隣接するという地理的なメリットに加え、タイなどと比べ労働コストが安い点がある。
 もちろん、この現象は単に製紙事業にとどまるわけではない。ベトナムは、幅広いビジネス分野で、タイと並ぶアセアンの生産ハブとして位置づけられることとなろう。
(亜州IRアセアン編集部)

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