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ビジネス特集

2008年1月14日

懸念されるビジネスコストの上昇――2008年の経済

シンガポール貿易産業省(MTI)が1月2日に発表した07年の実質GDP成長率(予測値)は7.5%と、年初の見通しである「4.0~6.0%」を大きく上回った。サブプライム問題への処理の長期化と住宅市場の停滞により、米国経済の鈍化が見込まれることから、政府は08年の実質GDP成長率を「4.5~6.5%」と発表、経済成長のスピードが減速すると予測している。

 

国内経済は、サブプライム問題に起因する米国経済の鈍化や、原油価格の高騰などといった懸念材料があり、過去4年間の高成長率に対して、08年の経済成長率は減速が見込まれている。一方で、政府の予測値である「4.5~6.5%」は、同国の中期的な潜在成長率(4.0~6.0%)の圏内にほぼ収まるという「巡航速度」の見通しを示したと言え、決して悲観的なものではない。むしろ、中国やインドなどアジア経済の堅調な拡大などを背景に、予測不可能な外部経済環境の変化が生じない限り、景気の底堅さは当面続くと見られる。

 

他方、経済への悪影響が懸念されているのが事業コストの急上昇に伴う国際競争力の減退である。サービス業、建設業での企業活動が活発化していることに加え、半導体、石油化学、医薬品、クリーンエネルギーなどの製造業分野で大型投資が相次いでいることなどを背景に、07年1~9月の被雇用者数は17万1,400人の純増となり、06年通年の純増加数(17万6,000人)に迫る勢いだ。これに伴い、07年9月現在の失業率(季節調整済)はほぼ完全雇用に近い1.7%にまで低下、労働市場は逼迫している。特に、外国企業による大型投資が見られる分野ではエンジニアの不足が深刻化しつつあり、一部では、企業間の人材引き抜き競争が強まっているとも言われる。また、約1万人の雇用創出効果があると予想されるカジノ併設型総合リゾート施設の開業、オーチャード通りに建設中の大規模なショッピングセンター・商業施設のオープンを控え、今後はサービス分野でも人材獲得・維持が大きな課題になることが予想される。

 

こうした中、賃金上昇の勢いも加速している。名目月額収入の伸びを見ると、07年第1四半期は前年同期比5.5%増、第2四半期が8.5%増、第3四半期が6.9%増と、06年実績(2.8~3.8%増)を大きく上回っており、人件費の上昇は企業の人材獲得・維持に大きな影響を与えるものと見られる。

 

政府は、専門知識や技術を持つ外国人の受け入れ、在留外国人の永住資格取得(06年は5万7,300人)や永住権取得者の国籍取得(同1万3,200人)を促進する一方、半導体、バイオなどの分野では奨学金制度や高等教育機関での新たな履修コースを設けることで人材輩出基盤を整備する努力を続けている。また、08年1月から外国人労働者の雇用規制を一段と緩和する措置を実施した。

一方、都心部・同周辺部を中心にオフィスやコンドミニアムの供給不足が顕在化、賃貸料の急騰を招いている。好景気の持続に加え、投資銀行、資産運用会社など外資系金融サービス業の進出・業務拡張などに伴い、シンガポールで就労する外国人が増加していることが背景にあるとみられる。民間住宅価格、オフィス価格は05年から徐々に上昇し、06年以降は、加速度的に上昇している。07年第1~第3四半期の価格指数の上昇率を見ると、住宅物件が前年同期比13.8%増、21.0%増、27.6%増、オフィス物件は同20.3%増、26.6%増、32.2%増で推移している。都心部にあるオフィス賃貸料は、同じ期間に42.2%増、48.3%増、59.0%増と異常ともいえる高騰が続いている。

 

ホテルの平均客室稼働率も07年3月と7月に91%を記録、1年を通じて80%台後半を概ね維持している。平均客室料金も上昇基調にあり、6月には初めて200Sドルを超えた(210Sドル)。外国人旅行客、ビジネス出張客の増加、大型の国際コンベンション・見本市の開催などが理由だが、08年9月下旬にはF1グランプリの開催も決定しており、出張者の受け入れ、グループ企業の地域会議の開催などに当たっては、前後に大型イベントがないことを確認してから日程を決めるなどの対応に迫られることが続きそうだ。

 

シンガポールでは、多くの日系企業が東南アジアを中心とする地域をカバーする販売会社や営業所、地域統括会社を設立しているが、こうした好景気を背景としたオフィスやコンドミニアムの賃貸料、人件費の上昇、人材不足の顕在化などが、国際ビジネス拠点としての同国の国際競争力に悪影響をもたらしかねないとの懸念も高まっている。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.114(2008年01月14日発行)」に掲載されたものです。
文=ジェトロ・シンガポール 岩上 勝一

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