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シンガポール星層解明

2018年8月28日

シンガポールからの訪日旅行者が急増しているワケ

7割の訪日旅行者はリピーター
滞在型観光が訪日旅行の主流

「訪日旅行の普及率」が群を抜いて高いシンガポールで増加を続ける訪日旅行者。今後もインバウンド市場に加えて、関連する消費市場を当地で拡大させていくためには、各国からの旅行者間で異なる旅行実態の理解が欠かせない。ここではシンガポール人の訪日回数、旅行形態、そして希望する周遊都市数を域内諸国と比較することで、当地における訪日旅行者の特徴を洗い出してみたい。

 

図5で示すように、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムの6ヵ国のうち、シンガポールでは訪日回数が1回のみの旅行者は33%と一番低く、約7割の訪日旅行者はリピーターであることが分かる。また10回以上も観光目的で訪日した旅行者は15%と6ヵ国の中で一番高く、「在星日本人以上に日本に詳しいシンガポール人」に遭遇することにも合点がいく。そして個人旅行の割合は89%と他国に比べても高く(図6)、1~3つの限られた都市を周遊したいと答える旅行者の割合は35%と6ヵ国の中で一番高い(図7)。

 

 

これらのデータより、複数回以上の訪日経験を持つ旅慣れたシンガポール人は、個人旅行で繰り返し訪日した上で一つの都市により時間をかけて滞在する傾向がうかがえる。実際に筆者のシンガポール人の友人の間でも、毎年2回はニセコや白馬などでスキー三昧の休暇を過ごす家族4人のケースや、気の合う仲間同士で沖縄へのグルメ旅や富士五湖周辺でのサイクリング旅行などに出掛けるケースなど、ピンポイントの目的を持って滞在型観光を楽しむ旅行スタイルが普及している実態を垣間見る機会が少なくない。

 

深化する「体験型観光」へのニーズ
キアス化する「インスタ映え」欲求

最後に市場拡大に向けたポイントに触れて本稿を締めくくりたい。
1つ目は、「コト消費の体験型観光」の活性化。繰り返し訪日するシンガポール人旅行者は、買い物やありきたりな観光地を巡るだけの「爆買いの消費型観光」では満足せず、「新しい体験」を求めている。舞妓とのお座敷体験や茶室での高級スパ、また蒸気機関車をテーマにした観光誘客など、既に各事業者が様々な工夫を凝らしているが、この流れが今後一層強まっていくことは間違いない。

 

2つ目は、「インスタ映え」欲求に対する訴求力の強化。昨今、ガイドブックではなく写真・動画共有SNSのインスタグラムを参考に行き先を決める訪日旅行者が増加し、実際に投稿された写真や動画がきっかけで観光需要が創出された例が増加しているという。格安航空会社(LCC)のスクートは、「Get the insta-perfect shot in Hokkaido!(北海道でインスタ映えする写真を撮ろう!)」をキャッチコピーに掲げ、景観を独り占めできる閑散期の訪日需要を喚起しているが(写真参照)、今後もSNSでの発信を促す仕掛けを伴う販売促進活動は、シンガポール人の負けず嫌いなキアス気質の国民性も背景に強化されていくとみる。

316web_book_10_mr-yamazakiプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.337(2018年9月1日発行)」に掲載されたものです。

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