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ビジネスインタビュー

2018年6月29日

【オーシャン・ネットワーク・エクスプレス CEO】ジェレミー・ニクソンさん

日系コンテナ船事業会社ONEがサービス開始。シンガポールに本社構え、国際貿易に最大限貢献

 日本郵船(NYK)、商船三井(MOL)、川崎汽船(K-Line)のコンテナ船事業を統合して昨年誕生したOCEAN NETWORK EXPRESS(以下、ONE)が今年4月、サービスを開始した。世界シェア7%に達し、熾烈な国際競争で生き残っていくための一定の規模を整えたONEだが、今後は安定したサービスの提供はもちろん、新しい技術の導入によるオペレーションの効率化、統合のシナジー効果による営業力拡大など、一層の競争力強化が期待されている。ジェレミー・ニクソンCEOに、本社をシンガポールに置いた背景や、コンテナ船事業のビジネス環境、そしてONEのサービスの強みなどを聞いた。

 

 

本社をシンガポールに置いた背景をお聞かせください。

 シンガポールは国際的な海事産業の集積地として世界的に認知されており、海運業界向けの強力なインフラを備えています。コンテナ船業界では邦船3社含め海外で事業展開する「外地化」が進む中、当社の親会社である日本郵船、川崎汽船がシンガポールに世界本部や地域統括機能を置くなど、既に3社も歴史的にシンガポールを拠点とし、コンテナ船事業に限らず様々な輸送事業を行ってきました。

 

 また、当社にとっても、シンガポールは主要なコンテナのトランシップハブ港として機能し、現在週70便以上のサービスを提供しています。また、シンガポールには顧客企業が多数集積しており、多くの来訪者があります。これらの要素を総合的に判断して、シンガポールに本社を構えました。

 

現在、シンガポール本社には何人の日本人が勤務していますか。

 100人を少し上回っています。オフィスでは15の国籍のスタッフが働いており、最も多いのはシンガポール人です。日本人は2番目に多く、約30%です。

 

世界のコンテナ荷動きについての認識をお聞かせください。

 私たちは世界の貿易に大きく関与しており、多くの異なる種類、品目の貨物品をコンテナに入れて輸送しています。ですから事業は世界貿易の動きと密接な関係にあります。世界の貿易量は過去30〜40年で大きくプラスになり、コンテナ船事業は成長を続けています。直近1年間のコンテナでの輸送量は約1億5,000万本にまで拡大しています。これまではコンテナ船の供給過剰で苦しい時期が続きましたが、足元では供給に一服感が出ています。世界経済の回復を背景にコンテナ需要は年3~4%増えており今年から来年にかけて需給バランスは改善される見通しではありますが、昨今の燃油価格の上昇などの影響を受けて私たちは可能な限り効率的な運航を続けなければならない状況にあります。

 

この数年、コンテナ船事業会社の合従連衡が続いた要因は?

 この4、5年で、邦船3社のコンテナ船事業が統合してONEが誕生したことも含めて、コンテナ運送事業社数は大きく減少しました。なぜ、こうしたことが起きたのかでしょうか。おそらく市場での競争が激しすぎて、海運会社は財政的に困難な状況に陥ってしまったからです。財務実績は予想を下回り、多くの金融債務を抱えました。そして、2016年8月には韓国の一流海運企業だった韓進海運が倒産したことも一例と言えます。現在のコンテナ船事業は非常にチャレンジングなビジネス環境にあり、財務的に安定した健全な経営をしなければなりません。私は安定した強力な基盤を持つ会社を築きたいと考えています。

 

大きな統合効果が期待されているONEですが、どのように経営を安定させていくのでしょうか。

 私たちが約束していることの1つは、3社統合によるシナジー効果です。3つのグローバル本社を持つ必要も、3人のCEOを持つ必要もありませんが、一方で統合による相乗効果は期待でき、正しく経営すれば年間50億〜100億円を蓄えることができるはずです。今年は初年度ですから想定の60%、2年目は80%、そして3年目以降は100%の効果が得られることを願っています。今年4月にサービスをスタートし、現在、3社からビジネスの移転を進めていますが、海外コンテナターミナルの運営等も含め全般的に円滑に進んでいます。

 

日本の海運会社は、様々な船種を運航するポートフォリオ経営を強みとしてきました。ONEはコンテナ船事業一本であり、景気の影響を受けやすいように見えますが…

 コンテナ船事業と世界貿易は密接な関係にあります。仮に世界貿易が非常に厳しい状況に陥ったとすると、コンテナ船事業は非常に厳しくなります。ただ、一般的に言えば、貿易は地域によって特色があるのも事実です。当社は多くの異なる地域での貿易に関与しており、その視点からのポートフォリオ管理が可能です。また、数多くの種類の商品を輸送しているうえに、冷凍貨物もかなりの存在感を持っています。ですから、親会社のように船種によるポートフォリオは無いにしても、依然としてコンテナ船事業の中でもある種のポートフォリオがあると言えます。

 

現在、世界で運航されているコンテナ船の隻数と、このうちONEのシェアを教えてください。

 世界には約5,200隻のコンテナ船が運航していて、キャパシティーすなわち輸送できるコンテナの数は約2,100万TEU(20フィートコンテナ換算)です。このうち当社シェアは約7%です。当社はシンガポールを本部とするThe Alliance(ザ・アライアンス)というコンソーシアムのメンバーであり、東西航路(アジア⇔北米西岸・東岸、大西洋、アジア⇔ヨーロッパ)におけるザ・アライアンスのシェアは約26%を占めています。

 

今後、船隊規模を拡大していく考えは?

 実際には世界の貿易量は増加していますので、市場規模の拡大に合わせて、長期的な視点に立って船隊規模を見ていかなければなりません。統合前に親会社3社がそれぞれ発注していたコンテナ船が今年後半にかけて7隻竣工しますので、このコスト競争力と非常に環境効率の良い新造船が当社の次の1~2年間に十分な成長の可能性を与えてくれるはずです。年内には1万4,000TEU型の新造船7隻が加わり、20,000TEU船を含む超大型船は38隻という船隊になります。

 

ONEのコンテナは珍しいマゼンダ色ですね。反響はありましたか?

 マゼンダ色の物を持っている人は少ないでしょう。とても珍しく、印象的で、視覚的な色ですから、とても大きな関心を集めています。世界中の人々がマゼンダ色のコンテナ船を見に行き、絵を描いて、私たちに送ってくれています。ソーシャルメディアを通じて多くの問い合わせを受けています。ここシンガポールでは、ラッピング広告をしたバスも走っていますが、非常に驚かれ、注目されていますね。マゼンダ色は非常に革新的な色、非常に鮮やかな色、非常に強い色であり、私たちの技術革新に取り組む姿勢を表しています。

 

 

ONEのサービスの強みをお聞かせください。

 邦船3社は歴史的に日本の顧客を尊重し、細心の注意を払ったきめ細かいサービスを提供してきました。私たちもこの姿勢を維持し、世界中のビジネスにおいても同様に取り組んでいきます。

 

 加えて、異なる大陸間または異なる取引地域間でのダイレクトサービスの設計を試みていることも挙げたいと思います。主要港間でのダイレクトサービスが理想とはいえ、実際には港から港へとコンテナを海上輸送する場合、コンテナの積み替えが必要になることが多いわけですが、当社のサービスでは、シンガポールから日本へは週4便、日本からシンガポールへは週10便がダイレクト寄港しています。これは非常に重要なことです。

 

 また、現代社会はデジタル化が進んでいますが、海運業界も同様です。IT技術が活用されており、当社も最新のITプラットフォームを持っています。データセンターはシンガポールにあり、このクラウドベースのシステムにより、私たちのオフィス、スタッフ、コンテナ船が共有しているデータには効率的にアクセスすることが可能になっています。さらに、人工知能(AI)、ビッグデータ、機械学習、ブロックチェーンなどを非常に重視しており、これらの新しいデジタル技術がより安全な運航、効率的な経営に役立つことを知っています。研究チームがシンガポールのイノベーション企業2社と協力して、新しいアイデアを出し、市場の新しいアイデアを試して、アプリケーションを開発し、世界中のビジネスニーズに対応できるようにしています。

 

 最後に、当社には経験豊富なスタッフが多くいることも強調したいと思います。これも顧客を尊重し、サービスを提供するために非常に重要なことです。

 

今後、上場については検討してますか?

 ONEはシンガポールに事業運営会社本社を構え、日本の持株会社が所有する会社です。持株会社の株主は親会社3社です。上場は持株会社の決定事項ですが、上場予定はないと言ってよいでしょう。

 

AsiaX読者にメッセージをお願いします。

 We are servant of global trade, and wish to support your business as much as possible.(国際貿易の土台を支える存在として、皆様のビジネスに最大限貢献する事を目指します)

 

ジェレミー・ニクソン氏

 

1961年生まれ。英国出身。航海士としてキャリアをスタートし、その後カーディフ大学海事商学部卒業、1990年にウォーリック大学でMBAを取得(いずれも英国)。
ロンドン、シンガポールの海運会社を経て、2008年4月、日本郵船経営委員に就任。17年7月から現職。座右の銘は “Treat your staff well, so they will treat your customer well.” シンガポール在住歴11年。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.335(2018年7月1日発行)」に掲載されたものです(取材・写真 : 竹沢 総司)

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