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シンガポール星層解明

2018年6月26日

遅きに失したシンガポール航空とシルクエアの統合

SIAブランドへの一本化で集客拡大へ
オペレーションの効率化でコスト削減

シルクエアが現在所有する機材のビジネスクラスにフルフラットシートを、全クラスに座席モニターを導入する計画は、調達の関係で2020年以降に実施される予定である。そして一定数の機材の改装が完了した段階でSIAとの経営統合が計画されているが、統合はSIAグループに大きく2つのメリットをもたらすことになるとみる。

 

1つ目はSIAブランドへの一本化による集客・売上の拡大。航空業界に関心の薄い消費者の間では、シルクエアがSIAの子会社であることを知らないばかりか、LCCと勘違いしていることが多いのも事実。実際に航空会社の評価を行う企業の調査によると、シルクエアの評価は年々下がってきており、2017年時点においてはLCCのスクートと同じ水準にまで落ちている(図2)。世界トップクラスの評価を誇るSIAブランドにフルサービスの仕様を統一することにより、今後はグループ全体で競争力を高めた上で更なる集客が期待される。

 

 

2つ目は、グループ全体での効率的なオペレーションの再構築によるコストの削減。既に統合されているファイナンスや収益管理部門以外のバックオフィス業務全般に加えて、客室乗務員の共同運用、路線網およびスケジュールのより一体的な運営、そして2つの航空運送事業許可を1つに集約することなどにより一定のコスト削減が期待される。

 

顧客サービスレベルの統合には懸念も
ブランドの一本化はキャセイの後手

LCCに加えてフルサービスにおいてもブランドを一本化することで業績改善が期待されるSIAに死角はないのか。最後に今後の統合作業を成功裏に終えた上で実際に競争力を高めていくための要点に言及して本稿を締めくくりたい。

 

1つ目の課題はグループの3航空会社間で重複する路線網の再編。昨年にはシルクエアがマレーシアのクチン便、インドネシアのパレンバン便をLCCのスクートに移管、またスクートがミャンマーのヤンゴン便をシルクエアに移管、そして今年に入ってシルクエアがマレーシアのランカウイ便、インドネシアのペカンバル便、フィリピンのカリボ便をスクートに移管するなど、基本的にリゾート路線はスクートに、ビジネス路線はシルクエアに集約する形で再編を進めている。現在SIAとシルクエアで重複している10路線に加えて、図1の通りスクートも含めて3社で重複する6路線については引き続き見直した上で効率的に統廃合を進めていく必要がある。

 

2点目はパイロットや客室乗務員を中心とする社員の処遇や社員意識など両社人事のスムーズな統合。格上が格下の企業を統合する際には往々にして不平等な処遇が発生し、意図したか否かに関わらず不利な処遇を受けた企業の出身者が離職するケースは、過去に統廃合された日系の航空会社においても散見された。SIAは昨年グループのLCC2社を統合した上で客室乗務員は既に共同で運用していることから、人事を含めた統合プロセスの勘所は押さえているとみる。しかしながら、ブランド力や外部評価に大きな隔たりがあるSIAとシルクエアの2社間の企業文化や価値観、そしてそれらに基づく顧客サービスレベルの統合は一筋縄ではいかないと考える。

 

3点目は競争が激化する市場環境の変化に迅速に対応する経営体制の強化。昨年7月の当欄ではSIAが中長距離向けのLCCブランドであるスクートや、プレミアムエコノミーの導入が競合他社に比べて遅れた点を指摘しているが、今回のシルクエアとSIAの統合に関しても、2016年に子会社の「香港ドラゴン航空」を「キャセイドラゴン航空」へとブランドを変更した香港のキャセイパシフィック航空の後塵を拝した感が否めない。

 

拡大する東南アジアの航空市場において、シルクエアとの統合を通していかにシェアを拡大していくのか。SIAの今後の動きに注目していきたい。

316web_book_10_mr-yamazakiプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.335(2018年7月1日発行)」に掲載されたものです。

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