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シンガポール星層解明

2018年5月25日

スポーツ後進国からの脱皮を図るシンガポールの最新スポーツ事情

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MMA: Joseph Schooling appointed ambassador of One Championship(ストレイツ・タイムズWEB版 2018年5月9日付)
〈記事の概要〉シンガポール初のオリンピック金メダリストである水泳のジョセフ・スクーリング選手が、総合格闘技団体のワン・チャンピオンシップのアンバサダーに就任することが発表された。スクーリング選手は、今後ソーシャルメディア上で同団体の格闘家を応援したり、試合会場へ応援に駆けつける姿などを見せながらワン・チャンピオンシップの魅力を伝えていく。
https://www.straitstimes.com/sport/mma-joseph-schooling-appointed-ambassador-of-one-championship

近年シンガポールはオリンピックなどの国際スポーツ舞台で今までにない活躍を見せており、国内においてもF1やラグビー、サッカーといったスポーツで世界的なイベントの招致・開催を続けている。国策に沿うこれらの流れは今後も一層強まっていくとみるが、その過程においては世界に通用するアスリートを国内で育成していく体系的な仕組みの強化が必須と考える。本稿では、スポーツ後進国と揶揄されるシンガポールに存在する「学業重視」の文化的背景や「スポーツ軽視」の脱却に向けた動きにも触れながら、カギを握るとみる企業が果たすべき役割を考察していきたい。

 

存在感を増すシンガポールのアスリート
国は矢継ぎ早にスポーツイベントを招致

2016年のリオデジャネイロ夏季五輪で史上初の金メダルを獲得、2018年のピョンチャン冬季五輪において冬季五輪へ初参加、今年4月にジャカルタで開催されたソフトボール男子アジア選手権では3位に入賞して世界選手権へ初参加、そして当地を拠点とするアジア最大規模の総合格闘技団体ワン・チャンピオンシップが今年は日本にも上陸するなど、近年シンガポールのアスリートやスポーツ団体が世界およびアジア圏内で存在感を発揮する場面が目立っている。

 

またシンガポールは世界的なスポーツイベントの招致・開催にも余念がない。具体的には、2008年の初開催から今年で11年目を迎え、昨年9月には開催契約が2018年から2021年まで4年間延長された年中行事の代表格ともいえるF1シンガポール・グランプリ、2016年から開催国の一つとなり、契約が切れる2019年以降も開催が期待されている男子7人制ラグビーの国際大会(ラグビーセブンズ)、そして2017年から開催国に名を連ねる欧州の強豪サッカークラブ3チームが戦うインターナショナル・チャンピオンズ・カップ(ICC)に加えて、2002年から開催され近い将来にはワールド・マラソン・メジャーズ(WMM)、すなわち世界6大マラソン大会への仲間入りを目指すシンガポールマラソンなどを通して国の地位向上に努めている。

 

これら国内スポーツシーンの盛り上がりは、シンガポール政府が取り組む国民の健康増進やスポーツの普及に資するだけではなく、スポーツイベントへの参加や観戦を目的とする観光客の誘致にも大きく貢献することから、今後も官民の後押しを受けてその流れは一層強まっていくとみる。一方で、経済的には先進国でありながらスポーツ後進国と揶揄されるシンガポールには、一朝一夕には変わらない「学業重視」の文化的背景が存在することも事実である。以下ではその実情と、「スポーツ軽視」の脱却に向けて試金石となりうる画期的な取り組みや出来事を見ていきたい。

 

根強い「学業重視、スポーツ軽視」の風潮
注目を浴びる「国民的スター」の登場

経済協力開発機構(OECD)が2015年に実施した世界72ヵ国・地域の15歳の生徒を対象にした学習到達度合の調査において、シンガポールは「科学」、「読解力」、「数学」の全3分野において世界トップの成績を収めている。その背景にはシンガポール独特の選抜的な教育システムが挙げられ、中でも最初の関門となるのがPSLE(Primary School Leaving Exam)と呼ばれる小学校修了試験である。この試験の成績次第でセカンダリースクール(4年間の中学校)やジュニアカレッジ(2年間の高校)の進学コースは言わずもがな、小学校での留年さえ決まることから、小学校高学年の児童を持つ家庭では、放課後や長期休暇中も試験の準備が優先的となり、スポーツに費やす時間は後回しで限定的となる傾向がある。またアジアでトップクラスのシンガポール国立大学をはじめ、シンガポールに6校ある国立大学には、シンガポール人生徒全体の約3割から4割しか入学できない。その他の生徒は海外の大学や国内の専門学校などに進学せざるを得ない競争環境のため、小学校へ入学後は常に学業中心の生活を送ることが一般的となる。

 

そのため、幼い頃からスポーツに打ち込み将来を有望視される一部のアスリートは、より高いレベルで集中してスポーツに取り組むことができる海外に生活の場を移すことが主流となりつつある。実際にリオ五輪でシンガポール初の金メダルを獲得した水泳のジョセフ・スクーリング選手は、14歳の時に米国に渡ってスポーツ強豪校に入学しており、リオ五輪に参加した残り2名の水泳選手も米国の大学でスポーツ中心の学生生活を送っている。

 

さて「学業重視、スポーツ軽視」の風潮が否めないシンガポールの教育現場であるが、その一因にはプロスポーツ選手の市場が日本などに比べて成熟していない現状がある。当地のプロスポーツといえば、1996年に発足したサッカーのシンガポール・プレミアリーグ(今年3月より名称をSリーグから変更)のみであり、その選手の平均月給は3,000Sドル(約24.5万円)未満と、平均年俸が2,000万円といわれる日本のJリーガーどころか、シンガポールの大学新卒者の初任給(額面の中央値)の3,400Sドル(約27.8万円)さえ下回っている。

 

そのような中、今年3月に大学での競技生活の終了とともにプロに転向して企業とのスポンサー契約を解禁されたばかりのスクーリング選手が、独ファッションブランドのヒューゴ・ボスや前述のワン・チャンピオンシップとはアンバサダー契約を、そして地場最大手銀行のDBS銀行とは3年間で100万Sドル(約8,176万円)は下らないといわれるパートナー契約を結んだのは画期的な出来事だといえる。また同選手は、シンガポールを拠点とする電通スポーツアジアとコマーシャル・パートナー契約も締結して今後も様々な企業やイベントの「顔」としても露出を増やしていくであろうと想定されることから、この「国民的スター」の影響を受けて、プロを目指すとはいかないまでも、スポーツに熱中する子供や若者が増えていくのではないかとみる。

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