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シンガポール星層解明

2018年5月25日

スポーツ後進国からの脱皮を図るシンガポールの最新スポーツ事情

アジア最大の「オリンピアン密度」
課題はトップアスリートの国内育成

さてシンガポールの夏季五輪への参加状況を見ると興味深い事実が浮かび上がってくる。大会ごとに参加する選手数が高い割合で増加していることに加えて、2016年のリオ五輪に参加した選手数を人口規模と比較してみると、シンガポールは人口100万人当たりで4.4人と、アジアで最大の「オリンピアン密度」を誇っている(図1)。

 

 

しかしながら、リオ五輪のシンガポール選手団25名の競技種目やプロフィールに目を向けてみると、10名はお世辞にも花形種目とはいえないセーリングの選手であり、また、球技(卓球5名、バドミントン2名)の選手の半数以上は中国出身の帰化選手、さらに全3名の水泳選手は海外留学組と、主要な競技種目において国内生え抜きの選手が参加をしているとはいえない状況にある。

 

上記に加えて、シンガポールで開催されるF1やラグビーセブンズなどの国際大会において中長期的に観客動員数を増加させていく上では、現在は出場していない地元出身の選手やチームの参加が望まれるようになるのは間違いなく、今後は競技種目を問わずアスリートを国際大会で戦えるレベルにまで国内で育成可能な社会的システムやインフラを整備していくことが一層重要になると考える。シンガポール政府は、セカンダリースクール以降の生徒を対象にしたシンガポール・スポーツ・スクールを2004年に開校しているが、これまでの成果は8人のオリンピック選手を輩出するにとどまっており、十分な結果が出ているとは言い難い。

 

緒に着いたばかりの企業スポーツ
スポーツ先進国に向けて支援の拡充を

では世界に通用するトップアスリートをシンガポール国内で育成していくため、またその大前提として教育現場で学業とスポーツを両立させていくためには何が求められているのか。ここでは企業が具体的に取り組める内容に言及をして本稿を締めくくりたい。

 

日本では「失われた20年」の景気低迷や企業が「所有から支援」する流れへの変化に伴い、90年代以降は野球やバレーボールを中心とする実業団の撤退や廃部が相次いだ企業スポーツであるが、シンガポールではまだ緒に着いたばかりとみる。例えば、当地の企業スポーツ領域におけるパイオニア的存在といえるデロイト・シンガポールでは、地元の有望アスリートに対して今年から奨学金を給付しており、リオ五輪のセーリングに参加した学生選手には20,000Sドル(約163万円)を給付した上で用具の購入や海外試合への遠征を支援している。またデロイトでは現在40名以上の現・元シンガポール代表選手を雇用しており、奨学金を受けた選手達が大学を卒業した後には正社員としての雇用も約束し、選手がスポーツ中心の学生生活を送れる環境を提供している。現在は奨学金の給付と雇用の確保が支援の中心であるが、選手が世界に伍していくためには、今後は海外から一流のコーチを招聘するなど、企業には新たな次元の支援が期待されてくると考えている。

 

また企業によるスポンサーシップの効能は、何も一部の対象選手だけに限られた話ではなく、企業イメージの向上にも及ぶ。加えて、シンガポールには企業単位で参加できるチャリティー・ランなどのイベントが数多く存在するが、これら企業対抗に近しいスポーツ大会に社員選手を巻き込んで積極的に参加することで、社員の士気高揚や結束力の向上、そして健康増進にもプラスの効果が見込まれる。

 

シンガポールがスポーツ後進国から先進国へ発展を遂げていくためには、企業が担う役割が非常に大きいと考えている。当地の日系企業においては、これまで野球やサッカー、水泳などの競技で教室を開くなどして普及を後押しし、またシンガポール・プレミアリーグやラグビーのスーパーリーグ、そして各競技団体などへはスポンサーとして一定の支援を行ってきたが、今後はスポーツ先進国への仲間入りを意識した一段と目線の高い支援が求められてくるとみる。

316web_book_10_mr-yamazakiプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.334(2018年6月1日発行)」に掲載されたものです。

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